臼蓋形成不全症という股関節の病態について

臼蓋形成不全症という股関節痛を起こしやすい病態があります。女性に多い先天的な骨性構造の問題となります。

正常の股関節レントゲン像を示してみます。まずは男性です。

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骨盤は上半身の体重を両下肢(脚)に伝える構造です。膝や足首も同じですが、骨同士が接触し動きながら体重を伝達します。次は女性の正常股関節レントゲン像です。以後、この記事での股関節の左右は同じ位置関係となります。

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男女で大した違いはありません。おちんちんがついているかいないかぐらいの違いです。しかし、このレントゲン像に股関節痛の要因となる要素が表れています。それは股関節は下肢に上半身の体重を伝達する構造であり、その構造が正常か、若干正常から外れているかの違いが問題となり、そこから股関節痛が発生してくることになります。

まず、股関節の解剖用語を理解してください。股関節は骨盤(仙骨と寛骨から構成される)と大腿骨から成り立っていて、寛骨に丸い凹み(寛骨臼)があり、そこに大腿骨の頭部(大腿骨頭)がはまり込む構造となっています。

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大腿骨の上端である大腿骨頭部を骨盤の臼蓋部が被っているわけですが、レントゲンの評価としては大腿骨の球部(円形部=大腿骨頭)を臼蓋がどの程度被っているかを臼蓋大腿骨頭被覆率=AHIと呼称し、%で評価します。

正常股関節像で、その評価の実際を提示してみます。

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 左のレントゲンの男性ではAHIは36mm÷50mm=72%で、右の女性では45mm÷57mm=79%です。AHIが55%以下であると、関節の隙間に存在している関節軟骨が摩耗してきて、関節炎を起こし関節痛の原因となるのです。AHIが55%以下の症例を臼蓋形成不全症と呼称し、変形性股関節症を発症する最も大きな要因となります。

その実例を提示していきます。レントゲンは31才の女性で、当院に52才まで20年以上右股関節痛で通院しいただきました。

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一見すると、右大腿骨を被覆している寛骨の外側縁は緑ラインのように思えるかもしれませんが、本当に体重を伝達している臼蓋部は緑ラインではなく、骨が白く硬化している青ラインの部分となるのです。青ラインから緑ラインまでのスペースはしっかり大腿骨とは密着しておらず、体重負荷がかかっていないために、しっかり骨が構造されていない(白く硬化していない)構造部位でしかないのです。

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 そこでこの患者さんのAHIは上図のようになり、右股関節は51%(55%以下です)、左股関節は61%です。

 このような認識で両側の股関節の骨の体重伝達接触部分の面積を計測してみましょう。

下図で両側の大腿骨頭の黄色線の部分は上半身の体重伝達には機能しない領域で、青ラインの部分が上半身の体重を受けている領域と評価されます。大腿骨頭の体重伝達部分(荷重部位)の面積を計算してみます。実際は円形となりますが、計算の簡素化のために正方形として計算してみると、右大腿骨頭の荷重部位は14×14mm=196㎟となり、左大腿骨頭の荷重部位は27×27mm=729㎟となります。左大腿骨頭は荷重部位の面積は左大腿骨頭に比して、196÷729=27%しかありません。言葉を変えると、右大腿骨頭部は左大腿骨頭部に比して(単位面積あたり)約4倍の体重負荷がかかっているということを意味しています。

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左大腿骨頭に加わる過大な体重負荷が左股関節の関節軟骨を摩耗させていきます。消しゴムを使うのに、4倍の力で文字をこすっていたら消しゴムの消耗はぐっと進むはずです。正常な関節の骨性構造と適正な体重であれば股関節の関節軟骨は正常に維持され生涯にわたり痛みを発生しませんが、臼蓋形成不全があり、体重が重ければ股関節の関節軟骨の摩耗が進み変形性股関節症へと伸展していくのです。この経過をこの31才の女性の患者さんで示していきます。この方はぽっちゃりタイプで、少し体重が多めの印象でした。

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初診から11年経過した42才時の股関節レントゲン像となりますが、右股関節の関節の隙間(関節裂隙“れつげき”と表現します)は狭小化し、骨同士が接触しています。

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さらに7年後の49才時のレントゲン像では、関節の接触部分は増大し、大腿骨頭の円形が変形してきています。

患者さんは49才となっていますが、初診時は31才で、その頃は3番目のお子さんは乳児で患者さんはそのお子さんを抱いて受診されていました。49才時はそのお子さんは専門学校に進学していました。患者さんは右股関節痛が限界となっていて手術を希望するようになっていたのですが、そのお子さんの教育が一段落するまでは仕事を休むわけにはいかないという状況でした。

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平成30年5月30日52才時に医大に紹介し、右股関節の人工関節手術を受けられました。それまでは1~2か月に1度は通院されていたのですが、同年の8月2日に頚部痛で受診されたのみで、定期的通院はぱたりとなくなりました。

この患者さんの受診について付随して述べておきたいことが、もう1つあります。それはこの患者さんは平成16年38才時から右膝痛(右股関節と同側の膝痛)をずっと訴えていたことです。下図は38才時の右膝のレントゲン像で全く正常です。手術後に右膝痛で受診されることはありませんでした。即ち、この患者さんが感じていた右膝痛は右股関節に起因する関連痛と呼ばれる状態で、右膝に異常があって痛みを感じていたのではなく、あくまでも異常(痛みの原因)は右股関節にあり、手術後股関節が痛くない状態になったので、右膝痛も消失したという経過となるのです。

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しつこくなってしまいますが、股関節の臼蓋形成不全症の症例の長期経過をもう1例提示したいと思います。

患者さんは女性で平成15年10月7日32才時、右股関節痛で当院を初診されました。令和8年10月現在も23年経過しましたが、当院に通院されています。この患者さんも前記の患者さん同様ぽっちゃりタイプの方です。

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レントゲンは平成21年9月21日のもので、初診から6年経過していますが、右股関節に臼蓋形成不全の所見が確認されるだけで、初診時と変化はありません。この患者さんは事務職のパート勤務しており、テニスを週に3~4回行い、登山も月に1~2回するという活動的な方でした。初診時の訴えは4~5年前から右股関節痛があり、直ぐに治っていたが、平成15年から週1回のテニスを2回にしたということでした。土曜日に練習して、日曜には試合があるという生活となったら、毎日数回右股関節痛が出るという状態となったそうです。

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この患者さんのAHIは右57%、左71%で、右股関節は臼蓋形成不全のギリギリですし、左股関節に比して大腿骨頭の円形がきれいでありません。右大腿骨頭は角張ったところがあります。大腿骨頭がきれいな円形でない股関節は変形性股関節症に進展する可能性が高くなります。

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そこから9年後47才時、平成30年11月5日の股関節レントゲン像では大腿骨頭の頭頂部(てっぺんの部分です)で関節裂隙の狭小化が確認できる状態となっています。

50才を過ぎてからは右股関節の変形は急速に進行していきます。そして、令和7年9月55才からは股関節にヒアルロン酸製剤の関節内注射の治療を続けています。

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52才では残っていた関節裂隙が、54才では消失しています。

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55才では右大腿骨頭の円形の変形は進行し、頭頂部は扁平化し、骨頭内に骨孔(骨が壊れ、水の溜まったスペース)を生じています。人工関節の適応ですが、令和8年10月時点で患者さんは手術は決断できずに、月1回のヒアルロン酸の関節注射の治療を継続しています。

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臼蓋形成不全の患者さんでも、スリムな方は高齢となっても股関節の変形が進行していない方はたくさんいます。体重も大きな問題となります。

最後に臼蓋形成不全症の患者さんのMRI所見から病状を考察してみたいと思います。

古い患者さんの経験です。38才の病院の医療事務の方で、平成16年8月30日に左股関節の違和感で受診されました。7月11日と12日に2日続けて5時間テニスをして、12日に左股関節に違和感を発症したけれど、8月30日まで3回テニスをしているとのことでした。歩行やランニングに問題はないけれど、立ち上がりに違和感があるとのことでした。半年で4㎏体重が増加したので、ダイエットにテニスをしているということでした。

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レントゲン像は正常とも見れますが、左股関節は臼蓋形成不全の可能性もあります。中央部で左股関節の臼蓋部のピンクの領域は左大腿骨頭の皮質骨のラインと平行しておらず、体重を受けることには貢献していない状態と評価され、臼蓋部の荷重負荷面は赤のラインまでと評価します。すると、

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右股関節のAHIは63%で、左股関節のAHIは58%で臼蓋形成不全のギリギリの状態です。この股関節に連日のテニスという運動負荷が生じました。MRI検査では

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開業当初のMRI機器のため画像はクリアとは言えませんが、左股関節には大腿骨頭周囲は白いスカーフで被われている所見です。これは中等度の左股関節炎の状態で、全く正常の股関節構造の人であったら、重度の股関節痛を生じて歩行困難となっていても仕方のない状態です。しかし、この患者さんは左股関節は軽度の臼蓋形成不全があるために日常的に軽度の股関節炎を発症している可能性があるのだと思われます。そのため、この程度の関節炎では“違和感”ぐらいにしか感じないということなのだと理解されます。関節炎とは関節の構造要素に損傷要素が働き、関節が損傷状態となって発生している病態です。

このように臼蓋形成不全を持つ股関節は関節炎を発生しやすい状態があります。加齢による関節軟骨の易損傷性が生じたり、体重が重いことで一定の年齢からは股関節痛が発症することになります。