腰痛は頚部痛に比して背部痛の患者さんは多くいません。背骨で背部に相当する胸椎部には肋骨によって構成される胸郭が付着しているため、頚部や腰部に比して可動域が大きくありません。毎日の生活であまり可動していない胸椎部は、可動域の大きい頚椎や腰椎に比して摩耗や損傷のリスクが低くなります。そのため背部痛で受診する患者さんは多くはないのです。
「年少児の背部痛」で骨損傷に起因する年少児の背部痛について提示しましたが、若年者でも同様の病態がみられます。
かなり以前の症例を提示します。患者さんは30才の男性で溶接の仕事をしています。平成14年2月上旬に友人と体育館で2日続けてトランポリンをして遊んだそうです。2日目トランポリンをしていて背部痛が発症し、トランポリンを止めたそうです。以後、前屈で痛みが増悪し、背部痛で走ることができないという状態が2週間続いて、2月26日に当院を受診されました。
左側のMRI検査では第10胸椎と第11胸椎の上方は白く(高輝度に)なっています。これは同椎体が骨の損傷を起こしていることを示しています。当時の私はこのような日常の外傷と言えるほどでない骨損傷の病態をあまり経験していなかったために、4週間作業労働を控えることを勧めました。患者さんは電話番のような仕事を10日間続けると痛みはほぼ感じなくなったと述べていました。右側の6週後のMRI検査では第10胸椎と第11胸椎の上縁は低輝度となっており、これは骨損傷部に骨が形成されたことを示しています。幼少児も若年者もジャンプを繰り返すような動作で背骨が壊れる可能性があるのです。
次は22才の女性看護師です。令和8年7月23日に右股関節痛と背部痛で受診されましたが、主訴は下図赤丸領域のVAS8の右股関節痛で業務ができないということでの受診でした。背部痛は同年4月よりあるということで、ついでの相談でした。
股関節のレントゲン像は両側に軽度の臼蓋形成不全※を認めましたが、股関節MRI検査では異常を認めなかったため、この患者さんの股関節痛は腰椎に起因するものと診断しました。
※臼蓋形成不全については、後日股関節の項目で解説する予定です。
腰椎MRI検査もほぼ正常とみれる所見でしたが、L5Sに軽微な椎間板ヘルニアを認めるのみで、右股関節には異常を認めないためL5Sのヘルニアに起因する痛みと判断しました。この程度の異常であれば、十分服薬で症状が改善するであろうと考えました。予想通り1週間の服薬で右股関節痛は軽減しています。医師としては右股関節痛以上に、4月から3か月続いている背部痛の方が問題(自然には治らない)と受け止め、胸椎部のMRI検査を行なっています。
すると予想した胸椎部椎間板ヘルニアの変性所見(オレンジ矢印:椎間板が低輝度化している)は認められますが、脊髄を圧迫するような明瞭な痛みの病因の所見は確認されません。
T1の矢状断の左側画像で第9胸椎の下縁の皮質骨が一部軽度陥凹しており、その前方の皮質骨線も不整と評価しました。また、右画像・中央部では第7胸椎、第8胸椎の下縁皮質骨が明瞭でないと判断しました。これらは3つの椎体が下縁側で軽度損傷を起こしていると私は判断します。4月から勤務した病棟の看護師業務の負担で胸椎の軽微な損傷が発生していたのです。3か月にわたり複数の脊椎の骨が損傷を起こしていたことになりますが、服薬では骨の損傷は治癒しません。しばらく業務負担を回避または軽減しなければ治らないと理解するべきです。患者さんは4週間休業して業務に復帰していますが、次図で示すようにレントゲンの経過では第9胸椎は3mm程度扁平化が進行しました。
次はより特異な背部痛の病態となりますが、当院ではしばしば見かける背部痛です。
17才高校2年生の柔道部の男子生徒です。令和4年3月11日屋外の歩行中に下図赤丸の領域に背部痛が発症し、とても柔道ができないということで3月12日に当院を受診されました。
胸椎部MRI検査ではTh8-9に軽微な胸椎椎間板ヘルニアを認めます。これが病因の可能性も否定はできませんが、所見は軽度で、私はこれは病因とは判断しませんでした。
下図はMR・STIR矢状断ですが、(左側の図)第11胸椎の椎体の右より前方部に椎体(背骨)の外部に高輝度所見を認めます。そして(右側の図)椎体の左よりの画像で第8椎体から第10椎体の前方部に明瞭な高輝度所見を認め、これは椎体を被う骨膜部での原因不明の出血または骨膜炎ではないかと判断します。
歩行中の突然の発症という状況を考慮すると、徐々に発症する骨膜炎より骨膜部の出血の方が理解しやすいと考えます。
STIR冠状断でも第8・第9胸椎の左側と第11胸椎の両側に高輝度所見が確認可能です。私の病因はこの椎体周囲の出血であろうという推察が正しければ、服薬と安静で1から2週ほどで痛みは軽減するのではないかと考えました。ロキソプロフェンとプレドニゾロン2.5㎎を1日2回朝夕で処方しました。3月26日(2週後)に再診されましたが、3月24日から普通に練習を開始したけれど、背部痛は感じないとのことでした。
MRI検査で病態を正確に把握したため、適正な経過の予想が可能となりました。レントゲン像だけ診断する整形外科では異常は把握できず、心配ないと医師から言われシップのみを処方されるようなことが多いと思います。医師に大丈夫と言われるたので、多少の痛みがあっても柔道の練習を続けようとすると軽減どころか出血が悪化し、痛みは増悪する可能性が高くなります。当院では10代から30代ぐらいの若年者でこのような病態を多く経験していますが、先に述べた22才の女性の骨損傷との病態の違いを把握するには、MRI検査が不可欠となります。