皮膚科診療の「しもやけって、良くなるの?」の記事にも提示している症例となります。
49才の事務職の女性Mさんで、左小指DIP関節の腫脹と痛みで受診され、当初しもやけ(医学的診断名は“凍瘡”と言います)と診断したのですが、治療は順調に経過せずに、6週経過時点で慢性関節リウマチを疑うことになりました。しかし、私の受け止めていた症状は2~3指の関節炎であるので評価としては軽度のリウマチであろうという思いが強くありましたが、患者さんの状態は仕事も困難、夜寝ることもできないという訴えが続き、3か月の経過で生物学製剤を適応して、症状の軽減がえられることとなった症例です。
令和8年3月7日初診時のMさんの左小指の状態です。DIP関節が発赤腫脹しています。
しもやけを発症するには寒さが緩んだ時期ですが、私はしもやけと診断しました。私の治療(投薬:リマプロストアルファデクス3錠・プレドニゾロン5㎎3錠4日、プレドニゾロンを2.5㎎に減量して3錠3日間)で1週後の3月14日には左小指の腫脹は軽減します。しかし、リマプロ~3錠とプレドニゾロン2.5㎎3錠で治療を継続するも3月28日には左小指DIP関節の腫脹は再発してきます。これまでのしもやけの治療では経験しなかった経過です。
この時点で、Mさんの左小指DIP関節の腫脹はしもやけではなく、中高年の女性に多くみられるDIP関節の加齢性関節炎ヘバーデン結節の可能性が高いと判断し、ヘバーデン結節の症状が強い時に行う関節内注射を行いました。すると、同関節の腫脹は軽減し、左小指の屈曲も可能となりました。右小指DIP関節の太さ(周径といいます)を計測していましたが、初診時の3月7日は5.4㎝(左小指DIP関節の周径は3.7㎝)でしたが、4月11日は4.2㎝軽減しています。同日プレドニゾロン2.5㎎錠3錠から2錠に減量したためか、4月25日は4.5㎝で若干再発傾向がみられました。しかし、経過は悪くないと判断しプレドニゾロンの副作用を危惧してプレドニゾロン1㎎2錠に減量しています。
しもやけの治療は5月2日まで続けていますが、プレドニゾロンを1㎎に減量した後の5月2日には左小指の腫脹は再発傾向となっていました。5月9日には右示指(人差指)のMP関節の腫脹の訴えも出てきて、この時点で右小指のヘバーデン結節の診断は適切ではないと考えつつ、リウマチを疑うこととなりました。
慢性関節リウマチの診断基準のA項目は関節炎の評価項目となりますが、DIP関節の腫脹は評価項目に入っていません。Mさんの発症状況でリウマチを疑うことは、通常まずありえない症状でした。
カルテを見直すと、令和7年11月にも左示指MP関節痛での受診があり、リウマチの採血をしていましたが、リウマチ因子4(正常15以下)、抗CCP抗体0.5未満(正常4.5以下)で血液検査上はリウマチを疑う要素はありませんでした。5月9日の時点でしもやけとしての治療を終了し、プレドニゾロン2.5㎎錠3錠とメトトレキサートの処方による慢性関節リウマチの治療を開始しました。メトトレキサートは2錠から開始し、6月6日には4錠まで増量しています。リウマチとして治療開始後、Mさんには鎮痛剤も処方していましたが、下痢の副作用でロキソニンからソランタールという弱めの鎮痛剤に変更しましたが、6月6日には胃部痛で鎮痛を止めメトトレキサート・プレドニゾロンと関節内注射で関節痛と腫脹をコントロールしようという方針としました。
6月6日に左示指MP関節に関節注射を施行していますが、6月20日には腫脹は軽減していると評価します。
しかし同日、右示指・環指・小指PIP関節痛の訴えがあり、それぞれの関節に関節注射を実施しています。プレドニゾロンは2.5㎎2錠から1㎎2錠に減量しています。
メトトレキサート4錠とプレドニゾロン1㎎2錠でコントロールしようという方針ですが、7月4日には左手関節・左示指左中指のMP関節痛の訴えがあり、夜間の痛みはVAS10であるということで、メトトレキサートと関節注射の治療ではコントロールが困難と判断し、同日から生物学製剤のアダリムマブという注射を開始し、プレドニゾロンを2.5㎎2錠に増量しました。
すると、7月18日には左手関節・左示指中指MP関節の腫脹は軽減しています。同日、右示指環指PIP関節と右小指DIP関節に腫脹を認めましたが、同日もアダリムマブを行うと、
7月18日には右示指環指PIP関節、右小指DIP関節の腫脹も軽減しており、8月13日からはプレドニゾロンの減量を開始しています。
この症例では、当初右小指のしもやけという診断から診療を開始しましたが、治療が順調でない中で他指の関節痛も出現し、初診2か月で慢性関節リウマチの診断に至りました。さらに私の中では2~3指の関節炎であり、軽症のリウマチというイメージを持ってしまったため、生物学製剤の適応が若干遅れてしまった症例となりました。生物学製剤の治療は高額であるため、他のリウマチの患者さんでは生物学製剤は“ふところ”には効いたけれど、指には効かなかったという患者さんもいました。そのためMさんへの生物学製剤の適応を躊躇した面がありました。