慢性関節リウマチについては、診断基準(分類)というものがあります。
2010年にアメリカとヨーロッパのリウマチ学会が提唱した関節リウマチの分類基準です。BとCの項目は血液検査の結果です。
この基準を絶対視すれば、この基準に合わなければリウマチとは診断しないとなりますが、そのような対応の中でとりこぼされていくリウマチ患者さんが出てくることになります。また、この診断分類では手関節や手指・足指関節痛に比重が置かれていることが分かります。本来、慢性関節リウマチとは手指や手関節痛の疾患なのです。
私の関節痛の診療では、各部位の関節痛に対して医師のイメージする診断を想起しながら診療を行っていきますが、診療を進めていくと、「あれ、これは一般的なその部位の関節痛の診断に当てはまらない」と感じるような経過となることがあります。そのような場合、私は慢性関節リウマチを疑うことになります。
ここでは血液検査でリウマチ反応の出なかった患者さんの診療経過を提示していきたいと思います。
リウマチの記事で紹介している「突然発症した両側足底部痛で重度の歩行障害で受診した31才の男性」もそのようなリウマチの患者さんでした。
最初は、37才の事務職の女性の方です。
令和8年3月26日に当院を受診されました。初診時の手の状態ですが、手指の第2関節(PIP関節といいます)が軽度屈曲しており、第1関節(DIP関節)は軽度反りかえっていて、これはPIP関節の関節炎が続くとみられるようになる手指の変形なのですが、PIP関節の腫脹は目立ちません。
1年前から両手指の朝のこわばりがあり、午後になると手指の動きが困難になるということでした。1年前に医大の膠原病内科で有名な先生が開業したので受診してみたけれど、「あなたはリウマチではない」と断定されたそうです。
当院の血液検査ではリウマチ因子は3(正常は15以下)、抗CCP抗体は0.5(正常4.5未満)、CRP0.05未満(正常0.3以下)と血液検査はリウマチを疑わせる結果はありません。手指の使い過ぎによる腱鞘炎を疑わせる理学所見(MP関節の手のひら側の圧痛)は認められませんが、私の判断ではリウマチ以外には想定される疾患はないとなります。初診時、ボルタレンSR2カプセルとプレドニゾロン2.5㎎2錠を処方しましたが、1週後の4月7日にその服薬効果は全くなかったとのことでした。普通の関節炎なら一定症状の軽減があっても良いと考えるのですが、それがない。ならばリウマチしかないと私は確信して、リウマチの治療を開始しました。血液検査でリウマチの反応の出ないリウマチ患者は20~30%いるとされています。一般にリウマチ治療の基本薬とされているメトトレキサートを週に2錠から開始して、4週で4錠まで増量しています。鎮痛薬は胃部症状を出すため、比較的効果の弱いソランタールを2錠、プレドニゾロン1㎎を2錠処方しています。
初診から4週後の4月25日には手指痛はVAS6から4~5となっています。わずかな軽減かもしれませんが、1年間ずっと続いていた症状が軽減したのですから、診断と治療については間違いないと判断しました。しかし、効果は十分とは言えないと判断し、ソランタールは2錠のままプレドニゾロンを2.5㎎2錠に増量しています。
初診から6週後の5月9日にはVAS4と評価されました。私の治療目標はVAS2~3ですので、もう少し効果を出したいと考え、ソランタール3錠に、プレドニゾロン2.5mg も3錠に増量しています。
6月5日には下痢の訴えがあり、メトトレキサートは週4錠のままソランタールを止め、プレドニン2.5㎎を2錠に減量しています。可能性は低いと感じましたが、慢性痛の可能性も考慮して、慢性痛のパンフレットを提示して、ノイロトロピン4錠とアナフラニール2錠を処方しましたが、倦怠感が強く服用継続できなかったとのことでした。
6月20日からはメトトレキサート4錠とプレドニゾロン2.5㎎2錠のみで治療を継続していますが、7月18日には下痢はあったり、なかったりで日常生活での手指の障害は感じなくなったとのことです。私の治療経験としては、メトトレキサートの効果発現に時間がかかったと感じられますが、一般論的にリウマチの治療薬(DMARDと呼ばれる薬剤です)の効果発現は2~3か月かかるとされています。そのような見方では順調な経過であったのではないかと考えています。
次の症例は57才の女性の患者さんです。障害者支援の仕事をされています。
令和8年3月23日に両側上腕と両側下肢の痛みが発症し、同日夜には寝ていて痛みのために何度か覚醒したそうです。3月26日に両側手関節と母指球(母指のつけ根のふくらみ)に痛みが発症し、3月28日にA整形外科を受診し、血液検査を受け、リウマチ因子は未チェックで、抗CCP抗体0.5、CRP0.07という結果で処方薬を服用するも症状は軽減せず、ずっと左肩の夜間就眠痛が続いていたそうです。4月3日には両手のこわばりによる手指の屈曲障害が発症し、4月4日には歩行困難となったそうです。この経過では手指の痛みもありますから、リウマチも疑われますが、メインの痛みは左肩であり、さらに歩行困難をきたすほどの下肢痛もあるという状態です。
4月11日にはリウマチ専門のB内科を受診していますが、血液検査は異常がないため、「心配いりません、そのうち良くなります。」と説明を受けたそうです。何と呑気なリウマチ医でしょうか。3週間近くも様々な関節痛が出ていて、日常生活も困難な状態が続いている患者さんに症状軽減のアプローチを提案するのではなく、「心配ない、そのうち良くなる」という極めて根拠の希薄な言葉が説得力をもって受け入れられるはずがないと考えないことが不思議です。私にすれば、「うちの医院を受診したのは間違いです。」と言っているのと同じように思いますが、そのような感受性がこのリウマチ医には働きません。
4月22日には右足関節痛が発症し、激痛となったそうです。患者さんはこのような経過を日記風に整理して、4月25日に当院を受診されました。下図がそのメモとリウマチ専門医内科の血液検査データとなります。患者さんはこれまで経験したことのない体調不良に日々悩み、不安を感じていることを私に訴えているメモだなと受け止めました。
左優位の両側肩痛・右足関節痛・両大腿部痛の訴えでした。左肩のレントゲン像です。
年齢からすると左五十肩に腰に起因する両側坐骨神経痛が相前後して発症したとも考えられますが、経過中の両手のこわばりや最近発症した右足関節痛などから、その可能性が高いとは言えず、訳の分からない経過です。このような訳の分からない多関節の症状では私はリウマチを疑います。リウマチしか考えられないとも言えます。A整形外科で検査されていなかったリウマチ因子はリウマチ専門医クリニックでの採血では 3(正常15以下)でした。私の方針は、最初から続いている左肩痛に対してはMRI検査を行い、とりあえず慢性関節リウマチとして治療を開始しましょうという方針を提示しました。メトトレキサートを週3錠、ロキソプロフェン3錠とプレドニゾロン2.5㎎3錠を1週間、2週目はロキソプロフェンとプレドニゾロン2.5㎎を2錠に減らして処方しました。
初診2週後の5月9日に両肩MRI検査を行っていますが、服薬効果が出て、両肩とも挙上制限はなくなっていました。また、服薬は腰に対しても効果を出し両下肢痛も消失しています。
肩MRI検査では、痛みの強い左肩で関節炎が明瞭です。これはリウマチでなく、五十肩でも起こる症状です。5月9日にはメトトレキサート3錠、ロキソプロフェンとプレドニゾロン2.5㎎2錠はそのまま1週継続し、2週目はメロキシカムという1日1回の鎮痛剤に変更し、プレドニゾロン2.5㎎も1日1錠に減量しています。
5月9日の腰椎MRI検査ではL45高位で中等度の脊柱管狭窄の所見と評価され、これに起因する両側坐骨神経痛と診断可能な所見です。
5月23日(初診から4週後)症状はほぼ消失しており、メトトレキサート週3錠とメロキシカム1錠はそのままとし、プレドニゾロン2.5㎎を1㎎錠1錠に減量しています。6月6日も症状は消失しており、プレドニゾロン1㎎も中止しましたが、6月27日時点でも症状は再発していません。関節痛にはプレドニゾロンが効果をもたらすことは当然なのですが、それを止めても様々な症状が消失しているのは、リウマチとして処方したメトトレキサートが効果をもたらしているからであり、大関節と脊椎メインの症状で、血液検査ではリウマチの所見の確認できなかったこの患者さんは慢性関節リウマチであると確信します。