「リウマチの治療をいつまで続ければ良いのか」という記事を記載しています。
この理解のためには、20世紀のリウマチ治療での慢性関節リウマチ患者の自然経過を把握しておくことが重要です。20世紀のという条件をつけるのは21世紀直前から“生物学製剤”というリウマチ治療の画期的な薬剤が登場し、それ以前に存在していた重症のリウマチ患者が極端に減少したためです。
私の知る限り、慢性関節リウマチの自然経過については1990年代半ばに大阪大整形外科から提示された論文が世界的に画期的な業績です。その論文では慢性関節リウマチは3つのタイプに分類されます。
慢性関節リウマチとは免疫機能の破綻により関節が破壊される病気ですが、最も多いとされる単周期型は約70%を占め、手関節や手足の指の関節などの小関節の破壊が主体で機能障害も軽度のものです。多周期型は手足の小関節はもとより,膝関節や股関節などの大関節も病状を呈し機能障害は重度となりますが、大関節への人工関節手術などで十分の機能を回復できる病態となります。進行性増悪型はほぼ全関節が高度に破壊され,人工関節の適応も困難(または十分な効果が期待できず),寝たきりになってしまうことも多いタイプとなります。しかし、その発生頻度は5%を下回ります。
当院では慢性関節リウマチの治療は、メトトレキサートという薬剤で行っていますが、メトトレキサートで数年間日常生活に支障をきたさないような状態にリウマチがコントロールされていれば、それは単周期型ではないかと受け止められるわけですが、最近数年にわたり症状がコントロールされていた症例が従前からの治療で関節痛がコンロールされなくなるという経験を2例で経験しました。驚きと残念の思いを持って対応していますが、それを提示してみたいと思います。
「リウマチの治療をいつまで続ければ良いのか」という記事では、患者さんの意向でリウマチの治療を終了させても、症状の再燃をみていない症例を記載しています。また、提示例以外にもそのような症例はあるのですが、一方では落ち着いていた状態が急に良好なコントロール状態を維持できなくなる症例も存在するのです。
1例目は65才の果樹農家の男性です。令和4年7月に右母指痛、両側足部痛、左肘痛が2か月続いているということで受診されました。
血液検査で正常は15以下のリウマチ因子が341,正常が4.5未満であるCCP抗体という自己免疫の異常を調べる検査で異常値であれば慢性関節リウマチと診断可能とされている検査がありますが、そのCCP抗体は445でした。明らかに慢性関節リウマチの診断です。メトトレキサートの内服と罹患関節への関節内注入療法を併用して治療を行いました。
上図は、両足のMP関節の横断面のMRI画像となりますが、黒い骨の上に白い領域を認める部位が関節炎の状態を示しています。写真内下枠には関節内注入療法を施行した画像が提示されています。
令和5年3月以降はメトトレキサートを週に4錠服用で関節痛を訴えることなく果樹作業を続けていました。しかし、令和8年5月に左手関節痛と左中指のMP関節痛の訴えがあり、それぞれ関節内注入療法を実施しても痛みは十分には軽減せず、痛みの再発がみられたのです。他の指の関節痛も出現し、それぞれに関節内注入療法を実施しても比較的短期間で症状は再燃する状態となりました。関節炎を抑えるプレドニゾロンという薬剤を増量すると一時的に症状は軽減しますが、プレドニゾロンを増量して長期継続すると、様々な副作用のリスクが高まるので継続は望ましくありません。プレドニゾロンを減量すると果樹作業に支障をきたすのです。この経過より、最近生物学的製剤の適応を開始していますが、症状は軽減し仕事に支障をきたさなくなり、プレドニゾロンの減量を進めています。
次の症例です。“リウマチ指導医・県立医大臨床教授なのにVAS10の痛みに無関心?”という記事で紹介している患者さんです。
令和3年4月8日66才時にホームセンターに勤務していて、VAS10の足部痛で当院を受診されたSさん(女性)です。
6月24日にメトトレキサート4錠に増量し、足部痛はVAS1~2にコントロールされました。9月にはプレドニゾロンも中止として、以後も症状は安定していました。初診時リウマチ因子は157で(正常は15以下)、抗CCP抗体は492.7(正常4.5以下)でした。リウマチ因子は同年は100~120で推移していました。
令和4年10月13日はリウマチ因子149,5年3月27日は299と大きく上昇しましたが、自覚症状は落ち着いていました。
令和6年10月7日に右足背部痛の訴えの相談があり、シャワーがあたってもVAS4の痛みがあるとのことでした。3年間落ち着いていた右足部痛が軽度悪化した相談でした。同日のリウマチ因子は788で、どう考えても良いコントロール状態ではないと評価されます。右足リスフラン関節への関節注射などを施行して、令和7年3月24日には日中はVAS2にコントロールされていると述べています。同年5月22日に立ち上がりや歩行開始時数歩でVAS8の傷みという訴えがある中、(カルテ記載が不十分で詳細不明ですが)おそらく患者さんの意向に沿ってメトトレキサートを週4錠から3錠に減量しています。令和6年2月26日に患者さんから薬の減量または中止はどうなのかという質問があり、私は服薬を継続する方が無難と回答したことがカルテに記載されています。令和7年はリウマチ因子は700台で歩行開始時の20歩はVAS8であり、8年4月には左手指関節痛や右手関節痛も発症し、生物学的製剤の適応としました。
これら2例のように、数年来リウマチの状態が落ち着いていても、症状の増悪をみるリウマチ患者さんがいることを把握しておくことは重要だと思います。