ケガして大病院で処置してもらえば間違いない、そうなのでしょうか

夜間や休日にケガをすると大病院の救急外来で処置してもらうことになる場合があります。高いレベルでの医療を行っている病院だから、その処置は大丈夫、間違いないと普通は考えますが、必ずしもそうでない場合もあります。最近、経験した2人の患者さんのそのような実例を提示してみます。

53才の男性Hさんで、建設土木業に従事されています。令和8年2月20日夜入浴中に浴室の鏡が浴槽に落下して、右足背の挫創を受傷されました。5㎝ほどの傷で普通なら放置はしないのではないかと思うのですが、Hさんは2日間放置し、2月22日に総合病院を救急受診されました。しかし、救急科医師は2日経過しているので、創を縫合すると化膿するリスクがあるからと消毒して軟膏を塗布し、鎮痛剤を5錠処方しただけの対応しかしませんでした。

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それから2日経過した2月24日に患者さんは痛みで右足がつけない状態で当院を受診されました。左足に比較して右足は重度に腫れています。傷もかなりの大きさで、私にはこの傷に何も対応せず放置した医師の専門性?(常識?)が全く理解不能でした。化膿のリスクがあるとしたのであれば、せめて化膿止め(抗生剤)の経口投与ぐらいすべきではないかと思うのですが、その対応もありません。創の消毒のために創から2~3㎝離れたところに触ってもHさんは飛び上がるほど痛がります。この状態では荷重する(足をつけて歩く)ことは無理です。この傷が自然治癒するとも思えません。私は創内を洗浄消毒して、創を縫合し、創内のばい菌をできるだけ減らして、さらにはばい菌に汚染された浸出液(しみ出し)が創内に貯留しないように管(くだ)を留置して創を縫合しました。

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私の考えでは総合病院の医師が最初にこのような処置をして、しっかり経口の抗生剤を投与していれば、患者さんの右足はこれほど悪化しなかったのではないかと思います。

経口薬での抗生剤の服用と、しばらくは筋注での抗生剤の投与を続け、10日後の3月6日に抜糸をして管も抜きましたが、かろうじて足をつける状態となりました。

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しかし、右足の腫れと痛みは続き、通常の歩行は困難でした。

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初診3週後に腫脹を軽減しようと、bulky dressingというガーゼで分厚く被った包装対応を4日間行ってみました。このbulky dressingは手のケガでは時々行ってきましたが、40年の整形外科医生活で足に行ったのは初めてでした。bulky dressingにより右足はかなり腫脹が軽減する結果がえられています。

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その後も経口での抗生剤の服用を続け、受傷後2か月後の4月10日頃にやっと痛みなく歩けるようになり、5月11日から仕事に復帰の予定です。

次は、56才の男性で食品製造に従事しているNさんです。令和7年12月24日に機械に右薬指を挟み指先部を切断し、大学病院を受診し手術を受け、12月26日に当院を受診されました。その時の右薬指の状態です。

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部位別診療例の提示一覧で、“創傷”についての「下腿部の創傷は治りにくい」という記事で、他の整形外科が行った適切でない創縫合をそのままとした結果、創が治癒するのに5か月もかかった症例を提示しています。

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この患者さんからの経験から、私がこの創傷の処置はまずいのではと判断する処置は躊躇せずにやり直すことを患者さんに説明しています。

Nさんの薬指もそのような処置でした。創を皮膚で被うために無理やり縫合しており、指先は尖った状態となっています。糸(ナイロン糸)にも強い緊張がかかっていることが分かります。このような処置は指先部の皮膚の血液循環を障害し、皮膚が壊死となる可能性があります。また、壊死とならなくても血液循環の悪い創の治癒では瘢痕と呼ばれる硬いゴムのような肉が誘導されて、過敏な痛みの指となる可能性もあります。足に硬い皮膚(魚の目)ができてそこに体重負荷がかかると痛くて歩行が困難となりますが、手の指先で同様のことが起こり、ちょっとぶつけただけでも飛び上がるほど痛くなる可能性が高くなるのです。私はNさんに手術のやり直しを勧めました。しかし、大学病院のバリバリの医師が行った手術を高齢の町医者が適切でないと説明しても、なかなか信じてもらえません。仕方ないことです。当院ではこのような指先部の損傷に対しては“開放療法”という治療対応を勧めていて、そのパンフレットを提示して説明していますが、1時間ほど熟慮していただき、手術のやり直しを受け入れていただきました。

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手術のやり直しと言っても、糸を抜糸するだけの対応です。上図が抜糸後の右薬指の状態ですが、医大の処置後の指に比してふっくらとして指らしい形状となっています。皮膚で被われていない領域もあるのですが、心配いりません。指先の皮膚は大きな再生能力を持っているので、その再生能力を利用して皮膚の被覆を促すのが開放療法となります。このようなふっくらとした状態では過敏な痛みを生じる瘢痕組織も誘導されません。抜糸した状態で“開放療法”に移行していきます。

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1月29日(初診5週後)に皮膚欠損はなくなり、入浴を許可しました。

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2月12日(7週)で治癒となりました。Nさんには当院で治療して良かったと感謝してもらえました。

どうでしょうか。大学病院の医師が行った手術で尖った薬指として治癒して、過敏な指となって一生を過ごすリスクを残すのと、開放療法で治癒に5~7週間かけて自然な治癒を図るので、どちらが正解と考えるでしょうか。