腰痛のためにどうにか歩いているような重度の腰痛の患者さんがしばしば受診されますが、当院の治療で症状の改善傾向となると、「いつから仕事をしていいですか?」という質問を受けることも少なからずあります。私としては歩くこともできずに受診してきたのに、少し歩けるようになるとそんな質問をしてくるんだと驚いてしまうのですが、質問をスルーする姿勢では信頼関係が損なわれるかなと受け止めて、一応答えるようにはしています。しかし、単純な回答はありえません。患者さんの年齢や体格・体力も違いますし、仕事の内容も違うわけですから、簡単に回答できるはずがありません。事務職では早期に復帰が可能であろうと思いますが、作業労働での予想は困難です。
部位別診療例の一覧の腰の項目で、「立っていることも座っていることもできない 夜寝ることもできないような重度の腰痛」として紹介している75才の男性は初診4週後には重機操作の業務に復帰していると教えてくれていました。
極めて重度な腰痛でしたが、比較的早期に仕事に復帰できた経過です。
次の患者さんは67才の男性でホテルのフロントに勤務している方です。令和6年4月5日に左臀部痛を発症し、4月12日に当院を受診されました。杖をついてかろうじて歩けている状態で、私からみるとVAS10の印象でした。
腰椎MRI検査ではL45に左優位の中等度の椎間板ヘルニアが確認されました。重度のヘルニアではないので、当院の治療で十分良くできると思いました。同日L45高位で左L5神経根ブロックを施行しています。3日後の4月15日に受診され、VAS8→8のままであったので、誤診を回避するために骨盤のMRI検査を行っていますが異常を認めず、同日も左L5神経根ブロックを施行しています。4月18日の受診時もVAS8→8で、朝起床時はどうやって起きればいいのか分からないと言っていました。
同日は椎間板ヘルニアの高位での左L4神経根ブロックも追加し、左L5と2椎間の神経根ブロックを施行し、手術も視野に入れて、総合病院の受診予約を取り、ボルタレンという鎮痛剤からトアラセットという少し特殊な鎮痛剤に変更しました。総合病院の受診日は2か月先でした。今日の生活も困難なのですが、受診は2か月先ですから、当院での症状軽減を目指す治療を継続しなければなりません。このようなことは良くあることです。
4月22日にVAS8→4となり、初めて症状の軽減が確認でき、2椎間の神経根ブロックは効果がえられたと評価できました。しかし、痛みが強くなるとVAS6になるということでした。同日も左2椎間の神経根ブロックを施行しています。4月27日にVAS6→4となり、自宅内では杖を使わず歩けるようになったとのことでした。同日は左L5のみの神経根ブロックを施行しています。トアラセットは1回1錠から1回2錠に増量しています。
5月11日にVAS6→3~4と座位は問題なくなったと述べています。3回目の2椎間の神経根ブロック(神経根ブロックとしては6回目)を施行しています。5月18日にVAS4→0→4の経過で、5月21日から出勤してみようと思っているとのことでした。6月1日VAS4~6の痛みが出るが、仕事はできているとのことでした。仕事も可能となったので総合病院の受診はキャンセルされています。6月14日と7月5日に左L5神経根ブロックを施行していて、以後ブロックは行っていません。100mの歩行での往復が問題ないと報告されたのは9月19日の受診の時でした。
この患者さんが事務職の業務に復帰できたのは1か月半かかり、本当に良くなったと言えるようになったのは5か月かかっています。
最後の症例はかなり以前の症例となりますが、業務復帰に対する私の予想(アドバイス)が適正でなかった経過の患者さんです。
26才の工場に勤務する派遣社員の女性の患者さんです。20年前の症例のため、画像資料はMRI画像しか残っていません。平成18年4月20日に当院を受診されました。1か月前から腰痛があり、4月19日から作業困難となり、会社近くの整形外科を受診し、投薬とコルセットの装着をうけましたが、効果がないため知人の勧めで遠くから当院を受診されました。前かがみでやっと歩いている状態でした。
腰椎MRI検査ではL5Sに中等度の椎間板ヘルニアを認めます。同日、両側L5S高位で神経根ブロックを施行し、鎮痛剤の処方をしています。当時の評価は最初の痛みをVAS10として評価してもらっています。1週後の4月27日の再診ではVAS10→5に軽減していました。同日2度目の両側神経根ブロックを施行しました。ゴールデンウイークの期間ですから、工場は長期の休みになります。5月4日に出勤に向けて半日立位や座位の練習をしたところ、腰痛は悪化し、医大を受診したそうです。医大では仙骨裂孔ブロック(という当院とは異なるブロック)を受けて、5月5日には1日臥床して腰痛は軽減したそうです。5月6日に3回目のL5S高位の神経根ブロックを行い、ゴールデンウイーク期間の経過から、5月いっぱい休んだ方が無難ではないかとアドバイスし、2週間の処方を行いました。5月20日の受診時に患者さんは「5月10日から出勤したが、仕事はできている。」と報告してくれました。私のアドバイスは役立ちませんでした。
3人の患者さんの業務復帰の経過を提示してみましたが、業務復帰のタイミングを予想することは困難です。