40才男性で週2回テニスを行い、県大会に出場しているMさんです。令和7年6月24日大会と練習が続き左膝内側痛が発症した。当初は左大腿部内側に張りを感じていたが、徐々に左膝内側痛となったとのこと。つま先立ちで症状は増悪するとのことでした。7月4日当院を受診されました。
スポーツをしている人の内側の痛みで最も多いのは内側半月板損傷です。下図の内側半月板が傷ついた状態です。
しかし、Mさんの左膝には内側半月板に沿った圧痛を認めませんでした。半月板損傷では損傷部位近傍に圧痛を伴いますが、それがないので私はこの方の膝痛は腰に起因する膝痛の可能性が高いのではないかと考えました。しかし、Mさんは納得いかない様子です。まあ、当然かもしれません。
Mさんは平成30年10月に右坐骨神経痛(右下肢痛)の症状があり、腰椎椎間板ヘルニアの診断で当院からの紹介で総合病院で手術を受けています。そして、令和3年9月に左坐骨神経痛で当院を受診していました。下図はその時の腰椎MRI検査画像です。この時は服薬のみで症状の軽減がえられました。
令和7年7月の左膝痛での受診時には、腰の状態はずっと良いという評価でした。
膝のMRI・STIRという条件で左膝内側に異常があれば、同部は白く(高輝度)となりますが、そのような所見は確認できません。
PDという条件でも左膝内側は半月板を含め異常を認めません。
そうなると私の判断はMさんの左膝痛は膝に原因がないのではないかと考える方向となります。膝が原因でないとすれば、どこに原因があるのというと、それは腰であろうということになります。腰に起因する坐骨神経痛の一症状として膝痛が発生していると考えるのです。
腰椎のMRI画像となります。L45で椎間板ヘルニアを認めますが、左端の令和3年9月30日のL45水平断のヘルニア(オレンジ矢印)に比して、令和7年7月4日の腰椎MRI画像のL45水平断では赤矢印左側で脊髄への圧迫が軽微悪化していると私は評価しました。上段中央のT1矢状断ではL45のヘルニアはL5Sのヘルニアより白くなっています。これは最近ヘルニアが悪化したと推察させる所見となります。私の判断はL45の椎間板ヘルニアが悪化して左膝内側痛の原因となっているとなります。そのような判断だと、Mさんが言っている、「つま先立ちすると痛みが増悪する」ということも腰椎での神経の刺激が増悪する姿勢の変化であり、理解しやすくなります。
そこで7月7日(初診3日後)に左L45で圧迫を受けるL5神経根にブロック注射を行いました。すると7月14日にはVAS8(とても痛い)が0に軽減していました。以後、Mさんは受診されていません。
次は、43才公務員の男性の両膝のつっぱり感、締め付けられる感じという症状(膝痛?)の患者Tさんです。
令和7年2月8日に当院を受診されました。両膝のつっぱり感・締め付け感で令和6年5月より9か月間他整形外科に通院しているけれど、症状が軽減しないということでした。
理学所見は両膝の内側半月板の背側に圧痛を認めます。これは加齢による変形性膝関節症(※詳しい解説は“院長のインターネット講演・町医者の考える変形性膝関節症と治療”を参照ください)の初期にみられる普通の所見です。40才を過ぎたらそのような痛みが出てもおかしくはありません。しかし、Tさんの訴えている症状は少し変なのです。両膝のつっぱり感・締め付けられる感じという症状です。普通の変形性膝関節症の症状は“膝が痛い”のはずなのです。椅子やしゃがみ込んだ姿勢からの立ち上がりで膝が痛い、歩き始めに膝が痛い、階段の上り下りで膝が痛いというような痛みの訴えであるのです。しかし、Tさんは全く膝が痛いとは言っていないのです。レントゲン像も変形性膝関節症の所見は皆無でした。このような場合、Mさん同様に腰椎に起因する膝痛なのではないかと疑います。他医の整形外科医が膝痛として10か月治療を続けているのですから、これほど軽度の変形性膝関節症であれば少なからず症状の軽減がえられてもいいはずなのです。
そうであっても思い込みは誤診のリスクを高める可能性につながりますから、両膝のMRI検査を行いました。STIR条件の冠状断(前後像)では左膝の内側に若干の高輝度所見(白い領域)が確認されますが、明瞭で有意とできるほどのものではありません。また、左膝だけを痛がっているわけではなく両側性の訴えですので、症状と一致しません。
PDの冠状断でも矢状断(側面像)でも両膝の半月板には異常を認めません。
となると、より腰椎に起因する膝の症状であろうと推察することになります。腰に起因する症状なので膝が痛いではなく、両膝のつっぱり感・締め付けられる感じとなることも理解しやすくなります。そこで初診1週後の2月15日に腰椎のMRI検査を行いました。
結果は多くの整形外科医がみたら正常の画像と判断すると思いますが、私はL5Sに軽度の椎間板ヘルニア(オレンジ矢印)、L45もごく軽度の脊髄の圧迫の所見と評価しました。そこで私は膝の症状が膝に起因するのか、腰に起因するのかを明確に判別するために最も有用な鑑別の方法として腰のブロックの治療を勧めました。
患者さんが了承されたので、右はL45に対して、左はL5Sに対してブロックを行い効果の違いをみましたが、2週後の3月1日の患者さんの膝の症状はVAS6(けっこうつらい)が3(4は多少つらい、2がわずかにつらい)に軽減し、また6に戻ったというものでした。9か月他の整形外科に通院して症状の軽減につながらなかった膝の症状が、一時的にせよ大分軽減したということは、Tさんの膝の症状は腰椎に起因している可能性が高いと判断されます。高位を変えてL45とL5Sにブロックを行っても効果に違いがないので、3月1日の2回目のブロックは両側でL45で行ってみました。私の推察ではL45の微妙な所見であっても病因となることが多いという印象をもっているからです。
3月15日までの経過はVAS6→2→4で、前回より症状の軽減がえられ(前回はVAS3でしたが、今回は2まで軽減しました)、以前より症状の戻りも弱くなっており、ブロックの効果は明瞭にあると判断しました。患者さんが3回目のブロックを希望されたので、両側L45で行いました。この時点でブロックで効果は出ていると判断していますが、腰に起因する症状としても“締め付けられる感じ”というのは少し特殊な訴えという印象もあり、発症から10か月以上が経過しているので、慢性痛としての要素も出ているはずと判断し、慢性痛に対する薬剤の処方も開始しています。その後、患者さんの症状は服薬でVAS3~4にコントロールされています。慢性痛については、資料や動画で学ぶの“痛みについて その2 治療の困難な慢性痛について”を参照してみてください。
通常であれば膝に起因する痛みであろうと考えられても当然のはずの膝痛が、その病因は実は腰であったという40代の男性2例の症例を提示しました。