若年者の半月板亜脱臼の治療について

膝の他の記事で、「年少者の膝痛について 見落とされるおかしくない半月板亜脱臼」というものがありますが、膝の加齢性変化の始まりである半月板亜脱臼は10才のバスケットボール選手や、高校生の自転車転倒事故などでも起きているという内容でした。その記事では治療には言及していませんでした。

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半月板亜脱臼の治療については、ホームページの“資料や動画で学ぶ”の院長のインターネット講演「町医者の考える変形性膝関節症と治療」の中でも関節内注射が有効である、またはそれしか効果が期待できる治療はないというような趣旨の講演内容となっていますが、私はそう受け止めていました。

しかし最近、関節内注射でない服薬の治療で亜脱臼の痛みの治癒がえられた高校2年の男子サッカー部員を経験しました。前記記事での自転車転倒事故での半月板亜脱臼の症例の治療経過とともに、この男子生徒の治療について提示してみたいと思います。

その前に回りくどい話題を書かせていただきます。令和7年春から整形外科の医療機関でそれまでと同じような疾患の治療が困難となる医療業界のある出来事が発生しました。それは注射の治療についてとなります。

それは注射で使う痛み止めの薬剤であるケナコルトという薬の出荷が停止したことに起因します。当院では多くの注射の治療、腰椎や頚椎の神経根ブロック、五十肩の治療、腱鞘炎の治療、肘痛の治療などにケナコルトを多用していたため、出荷調整という情報をえた段階でしっかり在庫を確保しましたので、同年の夏までは従前の注射の治療が可能でした。しかし、8月より在庫が枯渇したため、ケナコルトに代わる同じ系統の薬剤(ステロイド薬という薬剤です)に変更して注射の治療を行うことにしたのですが、ケナコルトと同じ効果はえられず、「少しは効いた」「全然効果がなかった」というような評価しかえられず、それまではしばしば注射の治療のために受診されていた患者さんも注射の効果の悪さから受診されなくなった患者さんも多数います。そして、代替のステロイド注射薬も昨年11月には全く流通しなくなってしまったのです。40年以上の医師生活でこのようなことは初めてです。しかし、それ以前の10月にケナコルトの製薬メーカーは限定で販売を開始するという告知を行っていましたが、発注しても一向に納入はされません。昨年春までは2週間に5箱(100瓶)ほど注文していましたが、現在は3か月に1箱納品される程度の状態です。以前と同じように治療していたら、1週間も持ちません。薬は入荷しなくなっても患者さんは痛みを訴えて受診されます。どうしても患者さんを選択しながら対応せざるをえません。夜も眠れない状態とか、家の中も歩けないような痛みとか、そのような患者さんに限定して適応しています。

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しかし、この状態に治療上のヒントとなる出来事を経験したのです。その出来事によりケナコルトが使えない状況では経口のステロイド剤をしっかり投与することで、同じ効果がえられるかもしれないという発想をえたのです。実際の結果はそうなる場合とそうならない場合があるというところです。その出来事は私の薬の誤処方に起因するものでした。

昨年8月末に初めて受診された94才の女性で腰痛と右坐骨神経痛のSさんでの経験です。5年前から腰痛があり、受診直前に右下肢のしびれも発症し、寝返りも困難となったとのことでした。MRI検査を行い、神経根ブロックを行うと、VAS8→0→4という経過で右下肢のしびれが残存したため、プレガバリン(PG)というしびれに対する経口薬を25㎎(2錠)で1週、50㎎(25gmを4錠)でもう1週処方すると、しびれは消失しました。そこでしばらくプレガバリンを服用してくださいと説明し、プレガバリンを50㎎で処方したのですが、カルテ記載はPG25・4錠とするのですが、私がぼぉとしていてP2.5・4錠と記載していたのです。Pとは当院ではプレドニゾロンという薬剤の略称で、ブロック等に使用するステロイド剤の経口薬となります。この患者さんはプレドニゾロン10㎎を毎日服用することになったのです。プレドニゾロンは普通の腰痛は適応となっていないために付記する病名が必要で、月末の病名チェックで私にSさんのカルテが提示され、誤処方に気づきました。その時点でその患者さんに連絡をとり、次の休診日にご自宅を訪問し、お詫びをして薬剤を交換させていただいたのですが、「140前後の血圧が200となり、下がらなくなった」と言っておられ、それはプレドニゾロンの副作用であったと思われました。しかし、Sさんは「不思議なことに5年間あった腰痛が全くなくなった」とも言っておられました。これはまさにプレドニゾロンの効果のはずです。プレドニゾロンは副作用が出るため、肩の挙上ではなるべく少ない量で効果を期待したのですが、服用量を一定増やすことで大きな効果(もしかすると注射と同等の効果)が期待できる可能性があるのではと推察される出来事でした。Sさんは11月末の時点でも腰痛はないと言っていました。

この経験からできるだけ少量に限定して処方していたプレドニゾロンを、注射の適応としていた患者さんに一定増加して処方する対応を令和7年11月から試行錯誤しています。

さて、若年者の半月板亜脱臼の話に戻ります。

 18才の高校3年生の女子生徒です。令和7年9月6日自転車での学校帰りに同じ方向に走っていた車が左折してきて、それを避けようとして左側に転倒し、左膝を打撲しました。9月7日他整形外科受診して、打撲の診断でシップと投薬を受け、服薬は有効だったそうですが、服薬終了で左膝痛は悪化したそうです。以後時々左膝痛があり、10月12日さらに症状は悪化し、左膝屈曲で痛み、椅座位でも痛みがあるということで、10月25日に当院を受診されました。しかし、卓球での痛みはVAS4というので大したことないという印象でした。

18才女 MR1.jpgPDの冠状断の左膝の中央部分では軽度の亜脱臼を認める所見でした。この内側半月板所見は注意深く観察しなければ、見落としても仕方ないような所見です。

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PDの矢状断(横から見た所見)でも左半月板前方部は軽微な亜脱臼を示していました。この程度の亜脱臼の所見ならば、服薬で良くなるであろうと推察し、鎮痛剤のロキソニン2錠とプレドニン2.5㎎2錠を朝夕で1週間、2週目は鎮痛剤のメロキシカム1錠とプレドニゾロン2.5㎎朝1錠で対応しました。40代50代の加齢性の症状でもこの薬剤の服用で症状は軽減することが多くあります。

患者さんは服薬で痛みがVAS4→0となるとのことでしたが、服薬終了後にVAS4に戻ったとのことでした。さらに2週同処方を継続しましたが、経過は同じでした。この患者さんが期待するレベルに治療するにはケナコルトの関節注射しかないと判断し、11月22日と29日にケナコルトの関節内注射を行いました。1度目の注射では効果は明瞭ではありませんでしたが、2度目の注射で効果が出て、卓球をしてもVAS0となりました。

次の症例が服薬のみで半月板亜脱臼の痛みが治癒した患者さんです。17才のサッカー部の男子生徒です。令和7年12月27日から静岡遠征があり、初日の試合で全力疾走していて後方からスライディングされて前方に転倒し、右膝を捻挫し、以後は見学していたとのことでした。1月6日に当院を受診されました。1月10日のMRI検査(PDの冠状断)で右半月板の軽微な亜脱臼が確認されます。

17才男 MR1.jpgPD矢状断では内側半月板の関節包の接合部に軽度の損傷所見(左に比して接合部が白くなっています)が確認され、接合部損傷に伴う半月板亜脱臼と診断されました。

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自転車で転倒の女子高生の経験と94才の女性の腰痛の経験から、しっかりとプレドニゾロンを処方する方針としました。鎮痛剤のロキソニン2錠とプレドニゾロン5㎎2錠と増量して1週間、2週目はロキソニン2錠とプレドニゾロン2.5㎎2錠で1週間の処方を行いました。この患者さんは5週後に手指痛で受診されましたが、右膝痛は治癒しサッカーには問題はないと報告してくれました。半月板亜脱臼も服薬で治療できる可能性があると知れた症例となりました。