ながさわ整形外科 医療法人ピーチパイ

年少者の腰痛の大半は“筋・筋膜性腰痛”??

開業する前の勤務医時代、年少者の腰痛でレントゲン検査で異常の認められない腰痛は筋・筋膜性腰痛(または非特異的腰痛)と診断していました。厚労省の文書に「医師の診察および検査で腰痛の原因が特定できるものを特異的腰痛、厳密な原因が特 定できないものを非特異的腰痛といいます。病院の外来を受診する腰痛患者のほとんど (約 85%)は原因の特定できない非特異的腰痛です。」という記載があります。本当でしょうか。

この20年ぐらいMRI検査の普及により年少者の腰痛では腰椎分離症の診断が多くなされるようになってきました。開業して30年間年少者の腰痛をMRIで検査すると、医療機関を受診するような年少者の腰痛ほぼ100%、腰椎分離症か腰椎椎間板ヘルニアのどちらかであると私は理解しています。レントゲンしか検査をしない医療機関では年少者ではレントゲンで異常が確認されることはまずないので、筋・筋膜性腰痛または非特異的腰痛と診断されいると推察しています。

このような診療の1例を、まず提示します。

10才の女児でソフトテニスをしていた小学5年生です。平成16の小学生のソフトテニスの県大会で優勝したそうですが、同年春より体が硬くなり、17年4月9日にテニスの練習後に立ち上がりや前屈が困難となり、4月11日総合病院を受診しました。診断は「体が硬いだけだ。」だったそうです。4月28日に当院を受診されましたが、腰痛の訴えはありませんでした。

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小学5年生の女児が何の理由もなく、以前は容易だった前屈が困難となるでしょうか。「体が硬いだけ」このような診断を受けても、患者さんには何の意味もありませんし、納得できるものでもないでしょう。

当院の腰椎MRI検査ではL5-Sでの軽度の椎間板ヘルニアが診断されます。年少者では腰痛の訴えがなく、臀部から大腿部のつっぱり感でヘルニアが発症する場合があります。

当院では年少者の腰痛に対しては必ずMRI検査を勧め、腰椎分離症であるのか、椎間板ヘルニアあるのかを鑑別して診療のアドバイスをしています。

10才女児は椎間板ヘルニアに起因する腰から大腿部の柔軟性の低下の症例でしたが、椎間板ヘルニアの症例をもう1例提示します。

これも以前の症例です。高校3年のサッカー部のキャプテンをしていた男子生徒S君です。平成18年3月半ばに腰痛が発症し、1週間後にスポーツ専門の整形外科を受診し、椎間板ヘルニアの疑いがあるということで1週間の処方を受け、練習は続けて良いが腹筋背筋のトレーニングをしなさいという指導を受けたそうです。この医師の診療対応は私とは明らかに違っています。当時私はまだ年少者の腰痛の原因はほぼ腰椎分離症か椎間板ヘルニアであると確信してはいませんでしたが、腰痛で運動が困難になるのは腰部の体が損傷しているために起こる現象であり、損傷した状態があるのに(さらにその損傷の原因は過重なスポーツであるはずなのに)運動を続けていては症状は軽減するはずがないのです。痛ければ症状の軽減には運動を休むことが必要なのです。腹筋背筋のトレーニングを続ければ運動は続けて良いは、私からすればあり得ないアドバイスです。S君はスポーツ医のアドバイス通りにしていましたが、4月11日には腰痛で練習ができなくなり、当院を受診しました。

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当院では必ずMRI検査を行います。S君はL4-5高位の中等度の椎間板ヘルニアでした。スポーツ選手の腰痛は私はスポーツ障害ととらえていますが、S君にはスポーツ障害の考え方を提示しています。そして鎮痛の処方を行い、とにかく2~3週部活も体育も休みなさいと指導しました。その後練習を開始してみて、練習が可能かどうかは朝の腰痛のチェックで判断しなさいというアドバイスしました。朝の腰痛のチェックとは、①起床時の腰痛が昨日より悪化していないかどうか、②朝の洗顔時の前かがみの姿勢で腰痛が悪化していないかどうか、この2点です。腰痛があっても昨日と同等であれば練習は続けて良く、昨日より腰痛が悪化していれば、それはS君の場合には椎間板ヘルニアが悪化の傾向となっているからで、同じように練習していれば腰痛は悪化していくと判断するべきで、2~3日練習を休むか軽めの練習にするという考え方です。

S君が次受診したのは、3か月経過した7月1日でした。膝痛での受診でしたが、私が「腰の具合はどう?」と質問すると、「2週間部活を休み、その後は朝の症状チェックで対応していますが、大丈夫です。」と教えてくれました。

以上が若年者の椎間板ヘルニアに対する対応の代表例となります。次は腰椎分離症の症例を提示してみます。

最近の症例です。14才中学2年の女子ハンドボール部の選手Nさんです。令和5年2月23日左腰痛が発症し、2月28日に当院を受診されました。23日から部活は休んでいるということでした。腰を捻る、ランニングでVAS4の腰痛があるということでした。VAS4で練習を休止する姿勢は賢明なのですが、Nさんは小学生時はバスケットボールをしていて、膝や足首を痛め時々当院を受診していたので、私の基本姿勢、スポーツ障害は無理をすると悪化するということをしっかり身につけているためと思われます。

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腰椎MRI検査の画像1ではL5-Sに軽微な椎間板ヘルニアが確認されます。

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しかし、腰椎MRI検査2ではSTIRという骨が黒く描出される画像で、L5の腰骨の左寄りの赤丸部分で骨が白くなっており、これが腰椎分離症(腰椎の疲労骨折)の所見となります。腰椎分離症は体が硬い人に発症しやすい傾向があるため、分離症と診断した場合には椎間板ヘルニアより長い4週間の運動の休止と、体の柔軟性を高めるジャックナイフストレッチを指導しています。

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Nさんは私の分離症の治療方針にそって4週間部活と体育を休み、運動を休止した4週後の3月28日に2度目のMRI検査を行っています。しかし、分離症の所見は明瞭に軽減していませんでした。この時点での私のアドバイスは ⓐ練習を再開してみる。しかし、腰痛が再発する可能性は高い、ⓑもう4週運動を休止する。私の分離症の病態説明をしっかり理解し、運動を控えれば改善の可能性は十分あるはずだけれど、必ず治るとは約束はできない、というものでした。その後Nさんの受診はなかったので、6週後の5月10日に電話で確認すると、再検査後練習を再開したが腰痛が出たので、そこで3週間練習を休んだとのことでした。3週後に練習を再開してみると、今度は腰痛は出なかったということでした。そこで私から依頼して3度目のMRI検査を受けてもらいました。

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L5の骨の損傷を示す白い高輝度所見は改善していました。

腰痛で運動が困難となった場合、運動を休むことが基本ですが、状況によっては休めない(例えば、高校3年生が最後の大会の前に腰痛となり、運動できないというような状況です)場合には、運動を休みなさいという指導は行っていません。そこはその患者さんと相談して対応を決めていくことになります。