アキレス腱の痛みの患者さんは時々受診されます。また、アキレス腱が付着する踵(かかと)の骨(踵骨:しょうこつと呼びます)の部分の痛みの患者さんもけっこういます。小学生ぐらいまでの病状は踵骨骨端症やシーバー病という病名で有名ですが、治療困難例も多くあります。これは別の記事で解説して、この記事ではアキレス腱の痛みと成人のアキレス腱付着部の痛みについて提示したいと思います。
まずはアキレス腱の痛みの症例です。平成16年10月21日に当院を受診された、25才の女性の製造業に従事する方です。20年以上も前の患者さんですが、1か月前からの左アキレス腱痛で左脚をひきずってやっと歩いている状態で印象深く記憶している方です。私はその状態で1か月仕事を続けていることが信じられなく驚きました。
当然ですが、アキレス腱はレントゲンでは確認できません。MRI検査を実施しました。赤枠の左アキレス腱は右アキレス腱に比して白っぽく少し太くなっています。白っぽいというのは炎症の所見であり、太いというのは炎症を起こしている腱は腫れて太くなっているのです。左アキレス腱内も幾分白い線状の所見が認められます。これは痛みは発症していないのですが、1か月続く左アキレス腱痛をかばって右脚に負担がかかっているので、潜在的アキレス腱炎の状態になっていると推察されます。
この患者さんにはステロイドの局所注射を行うことで1週後には痛みは消失していましたが、12月16日と翌年5月14日に再発して注射して、局所注射を行っていますが、以後の受診されなくなりました。
次の症例は17才の高校2年のサッカー部男子生徒です。ゴールキーパーでしたが、平成24年7月中旬に練習試合で右かかとをけられて受傷しました。
翌日からレントゲン像の赤丸部分に痛みが出て、痛みを我慢して練習を続けていたそうです。練習後に痛みは増悪し、安静時痛もあったようです。9月24日から練習を休止し、9月27日当院を受診されました。レントゲン像では異常はありません。赤矢印部に圧痛を認めました。受傷後から2か月も経過していて、痛みが引かないのは単なる打撲ではなく、疲労骨折のような状態になっているのではないかと考え、MRI検査を行いました。
MRI所見で疲労骨折であれば、骨内に白い炎症所見が見られるのですが、そのような所見はなく、赤矢印部分(アキレス腱から踵骨上縁部分)に炎症所見が確認されるのみでした。確かに皮下の炎症所見ですが、これだけでサッカーができないの?と思うような程度と私は感じましたが、これしか異常所見は確認されませんでした。アキレス腱付着部の皮下の炎症がサッカーができない病因であれば、私の経験ではステロイドの局所注射で痛みは軽減すると判断できます。
(「スポーツ愛好者の足部痛 中足骨の疲労骨折について」の自衛官の記事を参照のこと)患者さんはその説明を受け入れて局所注射を希望され、実施しました。
患者さんは1度受診しただけですが、3週後の10月16日に電話をかけて経過を確認すると、注射した翌日(9月28日)から痛みは軽減し、30日以降は全く痛くないとのことで、普通に練習できているということでした。2か月続いた右かかと痛はMRI検査と局所注射で治癒しました。
3例目は外傷の契機もないアキレス腱付着部の痛みの症例です。37才の運送業(トラック運転手)の男性です。令和7年11月11日に当院を受診されましたが、同年8月より右かかと痛が続いているということでした。当初の痛みはVAS10で歩行もできない状態だったそうです。9月に他の外科医院で薬の処方を受け、多少痛みは軽減したものの、当院受診時の痛みはVAS6~8で仕事が困難な状態が続いているとのことでした。男性で原因不明の足部の痛みは痛風(血液中の尿酸が高値となって発症する痛み)であることが多いのですが、内科で数年前から痛風の治療は受けているとのことでした。痛風の場合、局所は皮膚が赤くなり熱を持つことが普通ですが、そのような所見はありませんでした。
赤丸部分に痛み訴えていましたが、圧痛は足底部よりアキレス腱付着部の方が強い状態でした。
MRI検査では右踵骨の骨内に白い炎症所見が確認されるともとに、踵骨の中央上部(の外側)が白くなっていて(オレンジ矢印)、これは距骨下関節炎という状態です。骨内の炎症所見部分には圧痛は確認されませんでした。
違う画像では右アキレス腱付着部に軽微な炎症所見が確認されます。しかし、17才のサッカー部選手に比較すれば所見はごく軽度でした。圧痛はあくまでこのアキレス腱付着部がメインでした。そして足底部の病変である足底腱膜炎の所見(「踵(かかと)のいたみ 2例」参照を)は認められませんでした。
この所見から私は局所注射で症状が改善するはずですと説明し、実施しました。しかし、距骨下関節炎が痛みに関与している可能性も考慮して、関節炎軽減の処方を朝夕2回で1週間処方しています。
12月4日(4週後)に再診され、局所注射の3日目の11月14日より痛みは軽減し、気にならなくなったとのことでした。当院での採血による尿酸値は7.3と高値であったので、かかりつけ内科医に痛風治療薬の増量をアドバイスする医療情報を記載しています。原因不明で4か月仕事が困難であったこの患者さんの右かかと痛もMRI検査と局所注射で治癒しました。
なお中高年者のアキレス腱痛で圧痛が確認されない症例では、腰に起因する坐骨神経痛の可能性があります。部位別の診療例の提示“腰”「同じ腰の椎間板に起因する痛みなのに、痛む部位が全く違うという現象」を参照してください。