ながさわ整形外科 医療法人ピーチパイ

包丁で切った創は要注意 中学2年生が経験した悲劇 当番医を信用してはいけない!

K君は中学2年生で野球部の投手でした。令和X年5月5日にお母さんの手伝いをしようとして、包丁を洗っていて利き手の左母指を切って、当番医で創縫合を受けました。そして連休明けに私の医院を受診しました。

しかし、この当番医は外傷の創処置での基本認識ができていませんでした。残念です。

①    包丁の傷は肉等に接しているため、雑菌に汚染している可能性があるので、十分な創の洗浄消毒が必要であること。これは雑草除去に使い土などで汚染している鎌などの創でも同じように考えるべきです。

②    創は縫い合わせれば良いのではなく、順調に治癒するための注意が必要であること。

そして手指の創の場合には、

③   手足のケガでは 腱や神経が損傷していないかを確認することが不可欠であること

この3つの基本認識がありませんでした。以下にその視点がなかったための悲劇的経過を提示していきます。

初診時の写真はありませんが、私は「あれっ」と感じました。創の皮膚縁が合っていないのです。そして縫い幅もかなり狭いのです。しかし、私は創処置をし直しましょうと提案する勇気がありませんでした。左母指の動きを確認するとゆっくり伸展することを確認しました。

5月13日に抜糸をすると、患者さんは翌日に再診されました。

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その時の状態です。がっくりです。創縁の皮膚の白い部分は縫い合わせて創内に食い込んでいた部分となりますが、皮膚縁と皮下組織が接していては創は治りません。図の適正縫合状態と不適正な縫合の図を参照してください。私はそのために創が離開したと判断し、再手術を行いました。

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その手術所見ですが、創内で左母指の伸筋腱が断裂していました(左写真の4つの矢印)。当番医は創縫合を行うにあたって③の視点が全くなく、腱の確認をしていなかったと思われます。腱の縫合をしなければ利き手の母指の動きは不完全で野球をすることはできなくなるでしょう。右の写真が腱を縫合した状態です。創縫合の再手術をやり直して、よかったと思いました。縫合した腱が生体で治癒するには4週間かかります。腱の縫合は緊張が強かったので、4週間指の伸展位を保持することは困難であるため、針金(鋼線)で指関節を固定しました(図左下レントゲン像)。

ここで私が令和6年4月14日に手術処置をした77才の男性の症例を提示してみます。町内会の側溝掃除の際に鎌で左示指を切ってしまった方です。側溝掃除の除草で使う鎌ですから、当然雑菌に汚染していると考えるべきです。

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上図の矢印が腱の断裂部です。受傷当日なのでK君ほど腱は離開していません。

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4週で固定を外し、8週で左示指は何事もなかったかのように治っています。

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K君の場合、手術後9日で創は腫脹・発赤して順調な治療経過ではなくなりました。これは雑菌による感染状態です。そのような場合には金属を留置していると治療の障害要因となるために針金は抜去しなければなりません。ばい菌を叩く抗生剤を筋注と経口で開始しました。通常は1週間もあれば、創の感染は鎮静化するはずですが、3週経過しても創は鎮静化せず浸出液が流出し続けていて、これはいったいなぜなのか理解できませんでした。縫合した腱も感染・化膿で溶けてしまう可能性があります。解決策を見い出せないため、とにかくMRI検査を行ってみることにしました。

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理解できないような左母指の状態は感染が骨内に広がり骨髄炎化していたためでした。右図の骨内と骨周囲の白い領域は感染巣を示しています。骨内に感染が広がると2週で治るはずの感染が数か月の治療期間となってしまいます。K君には筋注での抗生剤治療と経口薬での抗生剤治療を続け、浸出液が消失するのに、3か月を要しました。

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2.5か月後経過時点でのMRI検査では骨髄内の炎症所見(白い部分です)が大きく軽減しています。

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受傷後、4か月で抗生剤の筋注を止め、経口薬の抗生剤を止めたのは5.5か月かかりましたが、幸い母指伸筋腱も問題なく治癒し、K君は野球に復帰できました。

創傷の感染のリスクを最大限低下させるのは受傷後8時間の対応が重要であり、それを過ぎると感染のリスクをゼロ近く抑えることは困難と言われています。受傷後9日目の再手術の時も創内はばい菌感染を疑わせるような所見は確認されませんでした。包丁というばい菌に汚染されたものでの切創に対して創傷処置の重要な基本を押さえることもなく、休日当番医だから傷を処置すれば良いという安易な姿勢の医師がいることは残念です。

争いを好まない日本人の美徳により、”運が悪かった”と我慢している患者さんとご家族の姿勢により、このような医師は自身の医療研鑽を怠たり続けると私は思います。裁判などで大きな損失とストレスを受けることでしか、このような医師の姿勢が改善される可能性はないのではないかと私は考えてしまいます。かと言って、第三者である私が裁判をたきつけるようなことは日本人の美徳には大きく反すると理解しています。