ながさわ整形外科 医療法人ピーチパイ

患者さんの勝手な思いと医師にできること

最近の出来事です。

整形外科の医療とは血圧をコントロールするとか、コレステロールの数字をコントロールするというような簡単なことではありません。それらの治療は医療機関で採血する瞬間の血液データを薬によって調整していけばよいわけですが、膝が痛いという現象は、朝起床時の歩き始めに痛い、30分車を運転してそこから立ち上がる時に痛い、階段を上り下りする時に痛い、また日常歩いていて不意に方向を変える時に痛い、旅行で半日歩いたら痛くなった、それらの全てで膝への体重のかかり方は微妙に異なっているでしょう。しかし、痛い時もあれば、痛くない時もある、こんな時に痛かったけれどそれはなぜなの、痛くないようにするにはどうすれば良いの?というような質問を受けます。質問するのは自由ですが、この膝痛の質問に答えるのは採血でのコレステロール値をコントロールするようには簡単ではありません。「30分同じ姿勢で座っていて立ち上がり、歩き始めに痛いんだけれど」という質問への回答の難しさを、コレステロール値を調整するのと同じレベルで医師が回答することを期待しているとしたら、その患者さんは医療とはコンビニで買い物する作業と同じことのように受け止めている方なのだろうと私は理解します。しかし、整形外科的な症状(運動器の痛み)を解決することは、そのように簡単なことではないとここまでの文章から理解していただければ幸いです。

さて、具体的にあった出来事です。

71才の女性です。20年以上断続的に当院に通院されている方です。この患者さんは半年前の腰痛の受診では毎日接骨院に通っていたけれど、良くならず接骨院から他の整形外科を紹介されそこを受診したけれど良くならないので受診されています。また、骨粗鬆症の治療は遠方の内科で加療されています。さて、今回は左膝の痛みで受診されました。

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ラジオで聞いた両脚を高く上げて足踏みをする体操を1度やった後に左膝が痛くなって正座が困難になった、左脚全体に重い感じがするという相談です。診察では左膝だけでなく右膝にも変形性膝関節症の理学所見が確認されました。レントゲン像では両側膝はともに軽度~中等度の変形性膝関節症の所見があります。下腿側の脛骨(けいこつ)の内側縁に骨のわずかな出っ張りがあり(骨棘“こつきょく”と言い、軽度の変形性膝関節症の所見です:赤矢印)、内側の関節の隙間(緑矢印)は外側の隙間(青矢印)に比較して少し狭くなっています(中等度の変形性膝関節症の所見です)。71才の女性であったら誰にでもあるようなレントゲン所見であり、誰にでも起こっていいような膝痛のエピソードです。ただ1回だけの体操で痛くなったというのは、1時間庭仕事をしたら膝が痛くなったというような経過に比べて運が悪いな、そんな体操あえてやらなくたっていいのにと医師としては思うところですが、そんなことを言っても患者さんに嫌われるだけでしょう。左脚全体が重いという症状は膝に起因する症状というより、腰に起因する軽い坐骨神経痛の可能性もありますが、左膝痛も左脚の鈍痛も軽い症状です。私は当院での通常の変形性膝関節症に対する処方を2週行い、経過をみることにしました。腰に起因する症状であっても服薬で症状が軽減する可能性は十分あります。それで良くなって受診されない方も多数いると思います。良くなったら受診しない、受診する必要はない、そう考えることは仕方ありません。

しかし、この方は3日後に受診され、薬を服用したら左膝の後のつっぱり感がひどくなった、自分が飲んでる2種類のサプリメントとの飲み合わせが悪いんじゃないか、明日、明後日と遠方に出かけるけれど大丈夫かという相談をされました。

患者さんが受診して体調で困っていることを医師に相談することは自由です。私の仕事はその相談に誠実に対応して患者さんからの信頼を獲得することだと思っていますので、そのように対応しようと思いますが、この患者さんの質問はそう簡単ではありません。

①    薬を服用して症状が悪化した?

⇒通常そういうことはまず起りません。薬を服用すれば症状は改善します。1度だけ脚を高く上げる体操をして左膝痛が発症したように運の悪い経過であり、そのような滅多にないことの理由を2回の受診で医師が明確に判断できるわけがありません。

②    2種類のサプリメントを飲んでいるけれど、当院との薬の飲み合わせが悪いのか?

⇒どんな薬にも薬剤添付書というのがあり、この方に処方したロキソニンという鎮痛剤の薬剤添付書を提示しますが、赤枠欄には薬の相互作用での注意点が記載されていますが、医院で処方する薬は200種類ぐらいあります。このような記載を医師が正確に記憶できるでしょうか。

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青枠は副作用についての注意点です。薬剤とは厚生労働省が薬として認証しているもので、サプリメント等は対象外です。繰り返しとなりますが、当院では200種類ぐらいの薬剤を採用していますが、その薬剤の副作用や相互作用について正確に記憶することなど不可能ですし、日常処方しない内科系の薬剤の副作用や相互作用など分かりようがありません。医師は薬理学という授業の試験を通るために、国家試験に合格するための最低限度の副作用と相互作用を記憶することぐらいしかできません。患者さんが勝手に服用しているサプリメントの疑問を1度だけ診療した私に質問して解決しようという精神が理解不能です。

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変形性膝関節症は厚生労働省が公的に発表している数字として潜在的患者数が3000万人を超える日本人が最も多く罹患している病気としていますが、サプリメントを飲んで変形性膝関節症となる人がいなくなるのであれば、日本中の整形外科医院に膝痛で受診する人がいなくなるのではないか?そうなってもおかしくないかもしれません。しかし、そんなことにはならないと思います。どこの整形外科にも変形性膝関節症の患者さんがたくさん通院しています。サプリメントの効果はその程度のものと私は思いますし、私が行っている治療は厚生労働省が認めている薬剤で治療する対応ですので、サプリメントについては質問されても答えられませんと回答しました。

③    明日はイベントで比較的近隣の公園に出かける予定、明後日は奥会津に泊りがけで出かける予定だそうですが、この患者さんは私にどういう回答を期待しているのでしょうか。私が評価しようとする診療の内容は2週間薬を服用してもらい、自身の左膝痛が軽減傾向となるのか、期待するほどに良くならないのかという経過です。良くなれば、「良かったね」ですし、良くならなければ、次の手段を検討するという対応になります。様々な患者さんがいて、いろいろな生活習慣があるわけですが、この患者さんは自分の2~3日の行動予定に対してお医者さんからお墨付きをもらいたいのでしょうか。私がそんなに出かけると左膝痛は悪化するでしょうと答えたら、外出は止めるのでしょうか。全てにおいて意味不明です。診察料というお金を払えば、医師は自分の勝手な疑問や行動について納得のいく回答をしてもらえると思っているかのようです。

コンビニに行ってお金を払えば、自分の望む商品を購入できるでしょう。

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しかし、自身の健康問題は一人一人皆体格、仕事、趣味、既往歴などが異なっていてコンビニの陳列商品のように規格化されたものではありません。規格化された商品ではない患者さんの日常生活の細々とした対応の全てについて医師が満足いく回答をできるわけがありません。しかし、患者さんは診察料を払えば、そういう質問をすることは自由と考えている方はけっこういます。私が初回の診察でこの患者さんに行った薬の2週分の処方という治療対応は極めて単純な行為ですが、その背景にはホームページの資料や動画で学ぶの“町医者が考える変形性膝関節症”に示す経験と病態理解の元での対応ですし、2日続けて外出するけれど、その痛みにどのように対応すれば良いのかについては、ホームページの“痛みについて その1・その2”の講演の内容を理解していただくことで生体の自然摂理に沿った対応となっていくはずです。言葉を代えれば、生体の原理を理解しないで小手先に薬を変更しても良い結果にはつながるはずがありません。

動画表示.jpg3つの講演はそれぞれ1時間ぐらいの内容となっていますが、外来診療の中で、「薬を服用したら左膝の後のつっぱり感ひどくなった、自分が飲んでる2種類のサプリメントとの飲み合わせが悪いんじゃないか、明日、明後日と遠方に出かけるが大丈夫か」と質問するのは30秒ほどですが、それに対してしっかりとした理解をするためには、3時間の講演を理解して変形性膝関節症の痛みについての私の診療見解を共有していただくことで初めて私の想定している治療方針が理解可能となるのです。質問されれば私は何らかの回答をせざるをえませんが、ごく表面的な理解をしても、生体の痛みの原理をしっかり理解せずに高額なサプリメントを服用していれば変形性膝関節症は予防できるというような考えでは、私の説明の本質は理解されず、「薬は3日服用したけれど、良くならならない、かえって調子が悪い」という短絡的で勝手な理解となってしまい、私は受診しているんだから2~3分でちゃんと正解を教えてよという姿勢のままとなり、良質な医療の道筋を作ることはまず無理だと思われます。