このような記載はひんしゅくを買うかもしれませんが、医師もピンからキリまでいます。その実際はホームページの最初の診療の指針にいろいろな実例を記載しています。本当に患者さんの立場に立ってくれる医師を評価できるかどうかは重要なことです。
この項目では圧迫骨折の女性が私の診断と治療方針を尊重しなかったため、腰痛が悪化して本人が一番辛い思いをして、圧迫骨折のドミノ現象という連鎖反応を引き起こし、円背が急速に進行した症例を提示してみます。
81才の女性で、当院近隣にお住まいの方です。令和6年11月14日に当院を受診されました。11月3日より腰痛が悪化し、11月9日に比較的遠方の外科を受診して投薬を受けています。外科の専門は消化器で運動器の専門家ではありません。近隣の専門家の当院を回避して専門でない外科を受診する姿勢が私には理解できませんが、私がそう思っても仕方のないことです。外科の投薬は効果を出さずに、11月12日には寝返りができなくなり、不眠となりVAS10の痛みとなったようです。
レントゲン像では第1腰椎(L1)が他の背骨(椎体といいます)に比して扁平化しており(赤矢印)、圧迫骨折が疑われます。当院では高齢者の腰痛ではレントゲン像では診断できない圧迫骨折がしばしばあるため、必ずMRI検査を勧めています。
MRI検査ではL1はSTIR条件では高輝度と(白く)なっており、T1条件では低輝度と(黒く)なっており、これは骨が壊れていることを示す所見です。T1の造影像ではT1の条件で黒かったL1が白く造影されており、これは安静が保て、しっかり治療されれば椎体の扁平化が防止できる所見です。骨粗鬆薬の処方を開始するとともに、VAS10の痛みは辛かろうと強めの痛み止めトアラセットを1日4回で(朝・昼・夕・寝る前)処方しました。
圧迫骨折で最も重要なことは薬ではなく安静です。安静が保たれなければ腰痛の軽減にもつながりませんし、寝たり起きたりの体重負荷で壊れた椎体の扁平化が進みます。壊れた椎体に最も強い体重負荷がかかるのは寝たり起きたりする動作であるので、圧迫骨折の患者さんには自分の力でなく電動式ベッドでゆっくりと起床する、臥床することが一番重要ですと指導しています。今時はホームセンターでは3万円台で販売されていますし、介護保険を申請して廉価でリースを受ける(借りる)ことも可能です。
しかし、この患者さんは私の診断と説明を無視して、初診3日目に頭痛がすると受診されました。頭痛よりもなるべく寝ている、または自宅で椅子に座って休んでいることが重要です。2か月ぐらいは掃除・炊事等はしないようにアドバイスしています。頭痛薬を服用して様子をみていれば良いのにわざわざ腰に負担をかけて受診してくるのです。私の指導を理解していません。
11月19日(初診5日後)夜中に腰痛が悪化して体動困難となったと、また受診してきました。私の指示を守っていないので、圧迫骨折が悪化したことが容易に想像されます。レントゲン像では5日間で14mmL1椎体の扁平化が進行しました(オレンジ矢印→赤矢印)。圧迫骨折ではある程度の椎体の扁平化の進行は仕方ありませんが、安静が保たれていないため急速に壊れが進行しました。電動ベッドが導入されたのは初診後3週経過してからですが、圧迫骨折を悪化させないためにはできるだけ早期に電動ベッドを導入することが重要なのです。初期の3週間の間に圧迫骨折の扁平化は進行してしまいます。この方は他疾患もあり元々担当のケアマネージャーさんがいたのですが、ケアマネジャーさんによれば、初診から10日ぐらいは2階にも上がり下りしていたとのことでした。
11月19日の時点でコルセットも採型しました。最初のMRI検査でT1造影で白く造影されている患者さんはしっかり治療すればあまり椎体の扁平化は進行しないので、コルセット治療は一時的に高額の支払いが生じるので私は(造影される患者さんには)適応していません。1週後のコルセット装着予定日には痛くて動けないということで受診されませんでした。装具作製会社の担当者に自宅を訪問してもらいました。このようなことは開業して初めてのことでした。
12月13日のケアマネジャーさんの来院時の情報ではベッドからポータブル便器への移乗に30分かかっているとのことでした。私の診断と治療方針を尊重していただいていれば、圧迫骨折の診断がついて4週ぐらいで起床はかなり楽になったと言われることが普通ですが、全く動けない状態が続いています。初診3日目に頭痛がすると受診していたのに、専門家のアドバイスを尊重しなかったばかりに、このような経過となってしまいました。
1月11日(初診から2か月後)には患者さんは腰痛は大分楽になったと述べていましたが、レントゲン像ではL1椎体の上の第12胸椎の扁平化が確認され(赤矢印)、MRI検査を行いました。
MRI検査(T1条件)では、第12胸椎が低輝度化しており、圧迫骨折を発症したことが確認されました。
圧迫骨折の治療が適切に行われないと、圧迫骨折のドミノ現象と言われる隣接椎体に圧迫骨折が次々と波及することが見られることが時々あります。圧迫骨折のドミノ化現象も、圧迫骨折が診断された患者さんに渡すパンフレットには記載していますが、専門家のアドバイスを尊重しない姿勢で読んでも、パンフレットはパンフレットで私のことではないと自分の思い込みが優先しているのだと思います。
また、ホームページの診療の指針3も参照していただければと思います。
2月9日(初診から3か月)遷延化した腰痛のために自分で動けない時期が長くなったために、当院で起立歩行のリハビリテーションを開始し、4月5日までには自分で車いすへの移乗が可能となりました。レントゲン像では初診時に比して背骨の円背がぐっと進行していることが分かります。4月5日の時点で主人が転倒し圧迫骨折を受傷されてしまい、奥さん1人では生活できないために息子さんの介護を受けながら施設への短期入所を繰り返す経過となり、当院でのリハビリは中断しています。半年後に受診されたときにはほとんど歩けない状態となっていました。