ながさわ整形外科 医療法人ピーチパイ

通常の腰痛とは異なる腰痛

通常の腰痛は椎間板の変性(老化による損傷)か、椎間板の変性にともなう脊髄の刺激により発症しますが、時に椎間板に起因する腰痛ではなく、腰骨(椎体)に起因する腰痛が発症する場合があります。椎間板に起因する腰痛は服薬やブロック注射で軽減しますが、椎体損傷に起因する腰痛は安静の意識と実現が必要となります。椎体損傷はMRI検査によらなければ診断できません。この項目では椎体損傷に起因する腰痛について説明します。

54才の男性です。事務職の方ですが、平成23年9月18日に会社のイベントでテント固定用の錘を持って腰がピリッといって腰痛が発症し、同日夜に寝た時に腰痛が悪化し、ほとんど眠れなかったということで、9月19日に当院を受診されました。

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赤丸部分が痛みの部位となりますが、通常の腰痛に比して背中よりであることから腰痛の原因を確認するためにMRI検査を勧めたところ、患者さんに同意していただけました。

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MRI検査所見では椎間板の変性と脊髄の刺激はみられず、T2矢状断でもT1矢状断でもL1椎体の上縁の中央部が黒くなっており、骨の輪郭(皮質)が軽度陥凹しています。これは錘を持った荷重負荷でL1(第1腰椎)が壊れたことにより発症した腰痛であると診断されます。鎮痛薬の処方とともに骨を丈夫にするための骨粗鬆症薬の処方も開始しました。しかし、それ以上に重要なことは安静です。安静といっても自宅で寝ていなければならないというようなことではなく、重い物は持たない、中腰、前屈の作業はしない、階段の昇降の機会をできる限り減らす、必要以上に動き回らないというような意識をもつこととなります。

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10月3日の2週後の再診時のレントゲン像では、損傷したL1の上下の椎体はその高さは同じですが、L1の椎体は31㎜から29㎜に2㎜潰れが進行しています。初診時L1の椎体損傷が診断されていて、安静を意識して生活していたはずです。レントゲンだけの診療で「異常はありません」と診断されてシップ等の処方で生活していれば、多少痛くても腰痛を我慢して通常の生活を続けることになり、L1椎体の潰れはもっと大きくなっていたはずと推察します。患者さんには5週間安静を心がけてもらい、腰痛は落ち着きました。

その後、患者さんには骨粗鬆症の検査を受けてもらい、骨粗鬆症傾向を確認し、10年以上経過した現在も骨粗鬆症の治療を続けています。

もう1例、提示してみます。73才の女性ですが、週3回エアロビクスとヨガを行っている活動的な方でした。福島市の南地区からの受診された方です。平成26年春から前屈で腰痛があり、トレーニングを抑えれば痛みは軽減していたとのことでしたが、同年秋から日常生活でも腰痛が出るようになり、11月14日に当院を受診されました。

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レントゲン像ではL4・L5の椎体の後方部分(椎弓といいます)が白っぽくなっており(オレンジ丸領域です)、老化よるによる椎弓部が骨肥厚を起こしていると推察し、同部での脊髄の圧迫による腰痛であろうと予測しました。

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MRI検査では予想通りにL45レベルで脊椎は圧迫されており(オレンジ矢印)、腰部脊柱管狭窄症と診断される状態でした。しかし、L3椎体の上縁がT2矢状断ではV字に白く陥凹しており(高輝度化の所見)、T1矢状断では黒くなっており(低輝度化の所見)、椎体の骨の輪郭が明瞭ではありません。これは54才の男性の腰骨の損傷と同じ状態がもう少し悪化した状態と理解されます。54才男性は椎体損傷が発症して翌日に受診されていますが、この女性は半年間の期間がありますから、損傷状態がよりひどくなっていても仕方ないと思われます。私はこの患者さんの腰痛は脊柱管狭窄による腰痛ではなく、L3椎体の損傷に起因する腰痛であると診断しました。54才の男性に処方した薬剤を処方するとともに、8週間運動を休止しましょうと指示しました。

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8週後のMRI再検査の画像を提示します。T2矢状断ではL3椎体の高輝度所見は軽減化しており、上縁の皮質骨の黒い線が認識可能となっています。これは壊れたL3の上縁の皮質骨が修復されたことを意味しています。

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T1矢状断も同様であり、低輝度所見領域は縮小しており、上縁の皮質骨のラインが明瞭かしています。8週間の運動休止の後にエアロビクスとヨガを再開しました。この患者さんはその後しばらく通院されましたが、腰痛の訴えは再発しませんでした。