ながさわ整形外科 医療法人ピーチパイ

肩の打撲 適正な診断がなされないと痛みの軽減につながらない

47才の男性です。放送業務に従事されている方でした。

平成25年12月下旬に駐車場で転倒し、右肩を打撲されました。翌日、日曜で当番医を受診し、靭帯をゆるめたと診断され、シップと薬剤の処方を受けたそうです。

しかし痛みは軽減せず、年内にもう1度受診したのですが、「大したことない、2週で治る」と言われたそうです。その後も右肩痛は続き、26年4月21日に当院を受診されました。

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痛みは右鎖骨の外側端近傍(肩鎖関節:鎖骨と肩甲骨の接合部)の鎖骨遠位端のあたりでした。同部に圧痛(押して痛いという所見)を認めています。レントゲン像では健側の左鎖骨の遠位端部は上方に肥大しています(青矢印)。おそらく以前に打撲による小さな骨折を起こしていて、それが治る際に骨が肥大する形となったのだと思われます。右鎖骨遠位端部は赤矢印で骨の皮質(輪郭)が一部途切れています。異常所見の可能性がありますが、受傷から4か月経過しているわけで、受傷直後にはこの所見の確認は困難だった可能性が高いと思われます。肩の動きは前方からの挙上は問題ありませんでしたが、側方からの挙上は90度までの状態でした。

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MRI検査(STIR条件)で骨は黒く描出されるのですが、右鎖骨の遠位端部は白くなっています(高輝度所見といいます)。これは骨が損傷し骨内に出血しているような状態です。赤矢印で鎖骨遠位端部の骨の皮質の連続性は途絶しているように見えます。これらの所見からレントゲン像での骨皮質の不整は小さな骨折であると判断されます。この患者さんは右肩を打撲して、鎖骨遠位端部の小さな骨折を受傷したのですが、「2週で治る」と言われ、シップを貼って普通に生活をしていたところ4か月経っても痛みは軽減しない状態が続いていたという経過となります。

では、どのように治療していくのかというと、4か月も経過していて大袈裟な治療はありがた迷惑となることは明瞭です。最小限度の治療で痛みを軽減させていかなければなりません。この場合、骨折が治癒していないのですから、右肩に痛みを発生するような動作や作業をできるだけ回避することが第一の要件となります。このことについては、ホームページの「資料・動画で学ぶ 痛みについて その1」を参照してください。

積極的な治療対応として、右肩鎖関節に関節内注射の治療をすることを提案しました。

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赤矢印が右肩鎖関節内に薬剤を注入した所見となります。19日後の5月9日には初診時の痛みを10とすると5に軽減したという評価です。4か月痛みが軽減しなかったのが半減したわけですから満足してもらえても良いのではないかと思うのですが、この患者さんはなかなか良くなったと言ってくれない方でした。薬の処方を続けていたと思いますが(カルテ廃棄で詳細不明)、受診の度ごとに「良くならない」と言われ、痛みが気にならないと言ってくれたのは8月2日のことでした。治癒するのに受傷から8か月、当院受診から3.5か月を要しました。

8月30日に治癒状況を確認するためにMRIの再検査を行いましたが、右鎖骨遠位端部の皮質骨は再形成されており、骨内の高輝度所見も改善していることが確認できました。

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同様の打撲・骨折の症例を提示してみます。

30才の女性です。平成22年10月1日自転車で転倒し、右肩を打撲しています。同日夜は右肩痛があったものの家事は可能だったそうです。10月2日右肩痛が悪化して、当院を受診されました。受診時、右肩を動かすことはできない状態でした。

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圧痛は右鎖骨遠位端部に確認され、レントゲン像では同部は骨皮質が不整と評価されます(輪郭のラインが健側左に比較して薄い状態となっています)が、明らかな異常は認めません。

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MRI検査(GRという条件の矢状断:肩を前後に切ったイメージの画像です)では、赤矢印の鎖骨遠位部に骨折線が確認されます。

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同じGR条件の水平断でも鎖骨遠位端部の骨折が診断できます。

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この患者さんには多少大袈裟という印象もありますが、一般的な鎖骨の骨折と同様に鎖骨バンドを装着するとともに、当院独自の鎮痛処方を行いました。

10月8日(1週後)に再診となっていますが、カルテ廃棄で詳細は不明です。

11月1日に頚部痛で受診されていますが、その際1か月で右肩痛は治癒したと述べています。

このように骨折を当初から診断され、適切な治療対応と安静の意識が指導されれば、レントゲンで明瞭でないような骨折は1か月程度で日常生活には支障がなくなるものです。方やレントゲンだけの診断で2週で治ると言われた打撲が8か月日常生活に支障をきたした(当院を受診していなければ、8か月経っても治っていなかった可能性も十分あります)経過を皆さんはどう受け止めるでしょうか。