71才の男性で、ジョギングやウォーキングを週に2回行っている健康維持に熱心な方です。
この患者さんは40代から腰痛があり、20年来ある整形外科に通院されてきたそうです。その整形外科医の指導に沿って10年以上腹筋背筋のトレーニングを続けているとのことでした。
しかし、4年前から右腰痛が増悪し、起床後のズボンの着脱で(片足立ちとなった時に)VAS8の(とても痛い)腰痛があるということでした。
レントゲン像ではL4と5,L5と骨盤(S)の間の椎間板が狭くなっていて、老化を示す所見ですが、70才を過ぎていれば誰しもこの程度の老化の所見があって当然のものです。
初診時MRI検査を行っています。4年もVAS8の痛みが続いているのですから、必ず痛みの原因となる所見が確認されるはずと考えて検査しています。
通常の椎間板に起因する痛みを検索する画像では、L4-5で椎間板が多少脊髄を刺激していますが、全体として70代としては軽微な加齢所見と評価され、これが4年間VAS8の痛みをもたらしているとは想定できませんでした。
STIRという条件の画像では、L4の腰骨の前方下部の右よりで白くなっていて、これは腰骨の炎症を示す所見です。炎症という医学用語は分かりやすい表現をすれば、小さく傷ついている状態と理解して良いと思います。またL5の腰骨の後方下部も炎症所見を示しています。椎間板に起因する腰痛の所見は軽度であるため、私はこの患者さんの腰痛の原因はL4とL5の腰骨の炎症であろうと判断しました。
T1という条件のMRI画像では損傷を起こしている骨は黒くなりますが、L4前方下部とL5後方下部の腰骨は黒くなっています。
腹筋のトレーニングで腰を前屈させれば、L4とL5の腰骨が前方でぶつかり合うことで骨の炎症を惹起しており、背筋のトレーニングで腰を後屈させれば、L5と骨盤Sの腰骨が後方でぶつかり合って骨の炎症を起こしていて、それがVAS8の痛みの原因となっているのではないかと考えたのです。
私は同様の骨損傷が腰痛の原因となっていた事例の診断と治療の経過を示し、6週間腹筋背筋のトレーニングを休止して様子をみてみましょうと説明しました。また、当院の処方も行っています。
9月28日(15日後)には右腰痛は軽減傾向となっており、VAS8→5~6の評価でした。10月15日(トレーニングを休んで32日後)には腰痛はVAS0~1となっており、服薬は止めているということでした。
10月31日(7週後)にMRI再検査を行っています。T1の画像で変化を提示します。
L4の前方下部の右よりの黒かった骨損傷所見は正常に近い状態に改善しています。
左よりのL5後方下部の骨損傷所見はあまり改善の所見がえられていませんが、中心部の濃い黒い所見は軽減しています。
この時点でウォーキングの再開を許可し、腹筋背筋のトレーニングはあまり積極的に行わない方が良いでしょうとアドバイスをしました。また腰痛がVAS4以上となったら、MRI検査を予約して受診してくださいと伝えましたが、その後受診はありません。
ワンパターンの腰痛体操が全ての患者さんに有効とは限りません。痛みがあれば、その痛みの原因は何なのかをMRIで検査して明確にて治療方針を立てることが重要です。