ながさわ整形外科 医療法人ピーチパイ

立っていることも座っていることもできない 夜寝ることもできないような重度の腰痛

立っていることも座っていることもできない、夜も寝ることもできないような重度の腰痛、そのような患者さんが1年に数名受診されます。総合病院勤務時代の私の治療方針では、とりあえず入院して安静を図るか、硬膜管外チュービング(脊髄近くに1㎜程度の太さのチューブを挿入し、持続的に麻酔の薬を注入するという治療法)という処置で対応し、入院の間にMRI検査を行って病因を検索し、症状の軽減がえられなければ手術を考えるという治療の流れになったと思います。

開業してから30年が経過していて、総合病院は紹介状がなければ診療できない保健行政システムとなったので、とりあえずは市中の整形外科にかかることになるわけですが、このような腰痛は90%以上腰椎椎間板ヘルニアという疾病です。当院では初診日にMRI検査を行い、原因となっている椎間板を検索し刺激を受けている神経にブロックという注射の治療を行います。それが最も効果的な治療と私は考えています。

ある程度までの腰痛では、初回のこの治療でぐっと症状が改善します。しかし、表題に記載したような重度の腰痛ではほとんど治療の効果がえられない場合もあります。こうなると問題です。

最近経験したこのような患者さんを提示してみます。

75才の男性です。

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令和7年9月27日朝突然に左臀部痛が発症しました。徐々に左下肢全体の痛み(医師は坐骨神経痛と表現します)となり、即日当院を受診されました。立っていることも座っていることもできず、左下で横になっていると楽ということで待合でも左側臥位をとっていました。この患者さんは令和2年4月30日も右腰痛で当院を受診していてMRI検査を受けていました。この時は服薬のみで症状の軽減がえられていました。

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今回のMRI検査ではおおむね前回と変化がない印象ですが、右の4分解の左上のT1矢状断の画像でL2-3の椎間板がグレーに下方に垂れ下がるように出っ張っています。

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令和2年4月のMRI画像との比較ですが、L2-3の椎間板は明らかに悪化しています。これが今回の重度の左坐骨神経痛の原因です。

椎間板ヘルニアではこの場合にはL3神経根という神経にブロックを行うのが一般的です。初診日に左L3神経根ブロックを施行しました。

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トアラセットという薬剤の処方も行っていますが、このような重度の坐骨神経痛に服薬が効果をもたらすことはまずありません。症状が軽減しなければ“にっちもさっちも行かない”夜も眠れないような状態で生活しなければならないわけで、気の毒と考えて翌日の日曜を挟んで29日に診察を予定しました。

29日には左坐骨神経痛の痛みはVAS10→9という評価で効果はほとんど出ていませんでした。そこでこのような場合に私はL3神経根に加えてL2神経根もブロックもしてみるという一般的な治療から少し拡大した対応をしています。そこで29日は左L2とL3の2か所の神経根にブロックを行いました。

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30日にも診察をしましたが、痛みはVAS9→8.5という評価でした。同日もL2とL3の2か所の左神経根ブロックを行っています。また、トアラセットも1回1錠から1回2錠に増量するように指示するとともに、私の医院の治療では限界がある可能性も考慮して、手術も視野に入れて総合病院の診察の予約を入れることにしました。しかし受診予定日は1か月先でした。少なくとも1か月は治療の試行錯誤をしなければなりません。

10月2日の診察ではVAS8.5の痛みは4~5に軽減し、患者さんは座っていることができるようになったと述べていました。4日間で3回行った神経根ブロックが効果を出して、手術しかないであろうとも思われた腰痛は軽減しました。

10月9日にはトアラセットは1回1錠に減量し、10月23日には服薬しなくてもVAS1の状態となっています。