ながさわ整形外科 医療法人ピーチパイ

84才女性 膝骨折でリハビリ退院後から1年 新生仮骨が消失?

84才の独居の女性です。令和2年12月17日電車内での立ち上がり時に左膝痛発症し、そのままタクシーで当院を受診されました。

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元々重度の変形性膝関節症があり、圧痛は左脛骨(下腿側の骨です)の赤矢印部分(内顆部)に確認されました。通常、変形性膝関節症の場合、圧痛は大腿骨と脛骨の隙間の部分にみられることが多いのですが、脛骨の内顆部の圧痛であったこと、痛みが発症すると直ぐにタクシー代を払って受診していることを考慮すると、初診時から骨の異常の可能性を考慮してMRI検査をするべきだったのかもしれません。しかし、この時は痛み止めを処方して経過観察としました。

しかし、5日後の12月22日に左膝の痛みは増悪して受診され、この段階でMRI検査を施行しました。

84才女 初期MR.jpg

STIRという条件の画像ですが、赤丸部分、左脛骨の内顆部(内側)が白くなっています。これは骨内に出血しているという状態で、脛骨の骨損傷(=明確な骨折ではないため疲労骨折に近い状態)を示しています。膝を固定すると不自由の度合いが増すと考え、投薬と安静で経過をみることにしましたが、12月24日には1人では生活できないということで、安静を目的に元々心臓疾患で通院している病院に入院となりました。

2月28日に退院し、当院には3月1日に受診されました。もともと右肩の変形性肩関節症の痛みがある方だったのですが、車いすの生活で腕を酷使したため右肩痛のため箸も使えないということでの受診でした。この時の左膝のレントゲン像です。

84才 2か月後Xp.jpg

骨折のあった赤丸部分は白く仮骨が形成されて、骨折が治癒していることが把握されます。

次のレントゲン像は同年の年末12月28日に10日前からの左膝痛が増悪した時の者をです。リハ退院時に確認されたしっかりとした仮骨はまったく確認できません。これはどういうことなのでしょうか。

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初診時からのレントゲン像を並べてみます。

84才経過Xp.jpg

私の理解は、リハビリで入院時は本人の意向はどうであったか?ですが、退院して直ぐ一人暮らしが可能となるように積極的な歩行訓練が繰り返されたのだと思います。高齢により特に怪我をしたわけでもなく(電車での立ち上がりの動作だけで)骨の損傷を発症した弱い骨粗鬆症の骨は十分に骨が丈夫になっていないのにもかかわらず、積極的に歩行訓練を強制されることにより、その歩行の負荷は骨を壊す負荷として働いていたと思われます。そのため歩行訓練の負荷に負けないように骨折した脛骨は必要以上に仮骨を生成して歩行訓練に耐えられる骨の状態を構築していたと思われます。しかし、退院した後は83才の女性は一人暮らしで積極的に歩行訓練をするはずもなく、痛くない程度に必要最低限度の移動で生活をしていたはずです。そうなると骨折部に働いていた体重負担はぐっと軽減したため、過剰な仮骨は必要なくなったのです。それを体が感知して、過剰に生成された仮骨を吸収していったと考えられます。

このように(高齢になっても)人体は人間にとって必要最小限度の修復(骨形成)しか行わないようにできているのです。