令和7年10月7日に受診された患者さんです。
92才女性で、外反母趾痛での受診でした。娘さんが当院で診療を受け、良かったので連れてきたとのことでした。
私は開業前には10人程度の外反母趾の患者さんの手術を行い、良好な成績を得ていました。外反母趾では足の骨格が変形してしまっているわけで、服薬や外用薬などでそれが矯正されるわけもなく、またいろいろな装具も試してみましたが、誰にも有効というものはありませんでした。ある患者さんはAの装具が良いと言い、違う患者さんではAは合わない、Bの装具が良い、というようなことが日常的でした。手術でちゃんと治せるのですが、入院が必要であり、1か月程度は歩行に制限をきたすことなどがあり、外反母趾の患者さんならぜひ行うべき治療法とは考えず、開業してからは積極的に手術を勧めることはありませんでした。
痛みが強い場合には一過性に服薬する、外反母趾を悪化させない靴を選択してもらうことなどで外来診療は対応できてきたのではないかと思っています。
問診票の患者さんの生年月日を見て、どう対応すれば良いのか、上記の方針が患者さんに伝わるのかを少し悩みながら、患者さんを向かい入れましたが、私の心配は吹っ飛んでしまいました。
左足はこれまでみてきた外反母趾とは比較できないような重度の変形でした。足の上方からは左足趾は観察できません。患者さんには申し訳ないのですが、醜悪なほどに変形していると言える状態でした。右足も重度の外反母趾を呈しているのですが、こちらは正視することが可能な外反母趾だなと感じれる状態でした。そして、右足はあまり痛がっていませんでした。
右足の外反母趾は、令和1年に左下肢の静脈瘤の手術を受けたそうなのですが、その後急速に悪化して現在のような状態になったとのことでした。手術を受けた病院の整形外科で写真のような足底板の処方を受け、装着していたそうです。写真の足底板はインターネットから採用したものですが、患者さんが装着していた装具は革靴のように硬い素材で、内側の魚の目を刺激していました。私にはその装具を付けたことで偏平足を刺激し、魚の目の悪化を招いたように思われました。最近、痛くて装具を装着できなくなったけれど、装具を作製した整形外科を受診したら、作製を指示した医師は退職してしまったということで、当院を受診されたのでした。
患者さんはムートンスリッパというゆったりとしたふわふわの靴を履いていましたが、これ以外の靴は履けないということで、冬場に通販で購入したのだけれど、履き替えがなくて困っているとも言っていました。
この患者さんの、この足部と足趾の変形に何ができるのかとしばらく考え、当院で足部障害の治療に適応しているインソールEが適応できるかもしれないと考え、これまで作製したことのないようなインソールをデザインしてみました。
強く屈曲した母趾や第2~5足趾はインソールをカットし、刺激を受けないようにする、魚の目の部分も同様に対応する、外反母趾の突出部の前後はクッションがパッディングとなるようにするという意図のインソールです。
ムートンスリッパに挿入し、患者さんに履いてもらうと、「痛くない」と言っていただけました。
看護師にインターネットで履物を検索してもらい、「ムートンスリッパ」という呼称があることを確認し、アマゾンなどでは季節を問わず購入できることを患者さんのご家族に伝えています。