ながさわ整形外科 医療法人ピーチパイ

他整形外科で加療した手関節骨折の症例 と 当院で手術した症例の比較

手関節の骨折は整形外科で扱う骨折の中で最も頻度の高い骨折です。

まず、他整形外科で治療した患者さんを提示します。

 75才の女性でX年4月25日ベッドから落ちて右手をついて、右手関節の骨折(橈骨遠位端骨折)を受傷されました。

他整形外科で3週間ギプス固定を受けて、その後2か月毎日マッサージを受けるために通院したそうですが、右手指のこわばりがとれず、

7月30日に当院を受診されました。

初診時、右薬指と手のひらとの距離は3.5㎝あり、しっかり握れていませんでした。

他院治療例初診時Xp.jpg

手関節の(橈骨=親指側の骨)のレントゲンの側面像では、関節面は手の甲側に23度傾斜しています。

右側の正常例では手のひら側に17度傾斜していますが、通常は15度前後とされています。

この患者さんの手関節は正常に比較すると、15度+23度=28度 手関節の傾斜が狂ってしまった状態です。

手指は28度の坂道で踏ん張っている状態ですが、人であればこれはかなり疲れる状態だと思います。

そのために右手指のこわばりが改善しないのです。

このような場合、手関節に注射の治療を行うと症状の軽減につながることが多いので、初診時に手関節の関節内注射を実施しました。

他院治療例関節造影.jpg

8月22日(3週後)に再診されたときには、右手指のこわばり感は軽減し、右薬指と手のひらとの距離は1.4㎝に縮まっていました。同日、2度目の関節内注射を行いました。

8月29日にはこわばりはさらに軽減し、日常生活にはあまり支障がなくなったということでした。

この患者さんは骨折の治療で手関節の傾斜が大きく狂ったわけですが、幸い当院の注射の治療で症状は軽減しましたが、手関節の傾斜が大きく狂うと手指の握りが改善しきらない場合もあります。

そうならないようにするには、受傷時の初期治療で元々の手関節の傾斜に近い状態に整復して治療することが大切です。

当院では、最も多いこの骨折に対して、良好な整復位を保持して治療することを大切にしています。

そのためには受傷時に手の甲の側に転位した骨折を、ちゃんと手のひら側に傾斜するように整復します。

整復しても高齢者の骨折では骨はゆで卵が割れるように細かく、ぐつぐつに損傷していることが多く、ギプスで良好な整復位を保持することは難しく、ギプス内でじわじわとずれていくことがしばしば起こります。

そのため、当院では整復した骨折を鋼線という針金3本で固定して、さらにギプス固定を行うようにしています。針金もギプスも5週間で除去しています。

当院での治療例を提示してみます。

92才独居の女性の方です。Y年8月13日に庭で転倒し、左手をついて左手関節骨折(橈骨遠位端骨折)を受傷されました。同日、仲良しのお茶の先生に送迎されて当院を受診されました。

初診時Xp.jpg

骨折は手の甲側に19度傾斜しています。このままでは75才女性の患者さんのように手指のこわばりが続く可能性が高くなります。

私は既述の方針に沿って、手術を勧めましたが、患者さんは「嫌だ」という意向でした。しかし、お茶の先生が、「あなた、お医者さんが手術した方が良いと言っているのだから、受けなければだめよ。」とアドバイスしてくれて、手術を受けることになりました。

術後Xp.jpg

手術後、手関節の傾斜は手のひら側に傾いています。患者さんは(麻酔の注射が多少痛かったけれど)手術は痛くなかったと言っていました。

5週で針金とギプスを除去し、リハビリを開始しました。この92才の女性は几帳面な方で、7週以後の受診時には毎回自分で和服を着て受診されていました。9週後には日常生活に支障がなくなり治癒となりました。

9週後Xp.jpg

最終レントゲンで手関節面の傾斜は手のひら側に10度の傾斜となっていて、良好な治癒状態です。