下図の患者さんは22才の男性で、X年2月にスノーボードで左足関節を捻挫し、他整形外科を受診したが異常なしとされ、シップの処方のみを受けたそうです。
同年10月28日,、受傷から8か月経過して当院を受診されましたが、受診時まで立ち上がりや歩行、階段昇降では痛みはなく、スポーツ時には痛みはVAS6~8で(VASスケールについては部位別診療例の”痛みについて”を参照のこと)、びっこ(左足をひきずる歩行)となってしまう状態が続いているという相談でした。
捻挫受傷時も経過中も左足関節の腫脹はなかったと述べていました。
受診時にも左足関節には腫脹はなく、レントゲン像では異常は確認されません。おそらくこの問診で診断が想起できる整形外科医はいないのではないかと私は思います。
左足関節が腫脹していれば、徐々に悪化した靭帯損傷による関節炎かなと推察しますが、40年の整形外科医生活でも経験のない経過の症例でした。
患者さんの訴える経過の長さと発症する症状の強さから、MRI検査を行えば必ず異常所見を確認できるはずと推察し、MRI検査を勧めました。
上図のSTIR条件のMRI画像では患側の左足関節の距骨という骨が白くなっています。これは骨内の出血と同様の所見で疲労骨折と評価して良い所見です。
また距骨の足関節面はきれいな円形でなくなっています。これは疲労骨折により劣化した距骨に体重負荷がかかり続けて円形の関節面が変形したものと理解されます。
T1という条件のMRI画像では距骨は黒くなって損傷所見を意味し、脛骨(下腿側の骨)の関節面の軟骨が健側に比して黒っぽくなっており、これは関節軟骨の変性を意味し、この状態が進行すると将来にわたり日常生活での左足関節痛が続くようになるリスクを示す所見です。距骨の骨の形態が多少変形したように、このままスポーツを続けていれば、左足関節は変形性関節症に進行していく過程にあると理解されます。
患者さんは近々予定されている大事な野球の試合に痛みがでないような治療を期待していたようですが、私は一応薬を処方し、2か月スポーツを休止しなければ距骨の骨損傷はずっとそのまま改善しないままとなり、将来日常生活でのもずっと左足関節痛と付き合わなければならないようになる可能性を説明しました。
10か月後に患者さんは腰痛で再診されましたが、6週間スポーツを休止して、症状は治癒したと報告してくれました。
ながさわ整形外科では、時に足関節捻挫で発生する骨損傷を見逃さないために、以下のパンフレットを患者さんにお渡しし、足関節捻挫の病態を理解していただき、原則全例MRI検査を実施しています。
下図はパンフレット内に記載のある高校3年生のサッカー部選手ですが、左足関節捻挫で受傷時距骨に軽微な白い骨損傷所見がありました。
通常の足関節捻挫で症状が軽減する3週のギプスシーネ固定を除去した時点で、通常の経過と異なる痛みを訴えたため、2度目のMRI検査を実施すると、軽微な骨損傷所見は大きく拡大していました。この症例は計8週間の運動休止で対応し、大学進学後も問題なくサッカーを継続されました。
受傷早期にMRI検査で的確な診断がえられていなければ、スノーボードの症例のようにずっとサッカーのプレーに支障をきたしていた可能性が高いと思われます。
MRI検査では大半の症例が受傷している(レントゲンでは診断できない)外側の靭帯損傷の状態も明確に確認できます。
足関節捻挫においてもMRI検査を実施し、適切な治療方針を検討していくことは重要です。